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ツンデレ美少女に名前呼びをするように言われました


 強引に腕を引かれながら学校の外へと連れ出された龍太は混乱していた。だがそれ以上に彼は自分の腕を引いて前を歩いているこの少女に心から感謝をしていた。


 また…この娘に助けてもらっちゃったなぁ……。


 元幼馴染に死にたくなるほど追い詰められていたあの場面で彼女が飛び出してくれなければもう明日以降からは不登校状態に陥るほどの精神的ショックを引きずりながら生きていたかもしれない。

 今だってそうだ。憂鬱な気分で1人きりになろうとしていた自分を気遣って一緒に居てくれる。その思いやりの心がとても心地よかった。

 

 ただそれと同時に龍太の頭の中ではさきほどの彼女の発言がぶり返される。


 ――『その…いきなりこんな事を言われたら戸惑うかもだけど……す、好きになっちゃったみたいなのよ』


 てっきり自分を慰めるための発言だとばかり思った。しかしよくよく考えてみれば彼女が自分にそんな偽りの無意味な告白をする理由が何一つとしてない。


 じゃあもしかして……僕を好きだと言ったのは本当ってこと……?


 気が付けば龍太の心は先程の元幼馴染に付けられた傷跡が彼女のお陰で埋められている気がした。


 「あ、あの……月夜さん。改めて助けてくれて本当にありがとう」


 「別に良いわよ。それにしても何なのあの女!? 話聞いていたけどあれで本当に幼馴染なの!? 龍太みたいな優しい人間と付き合いの長い〝幼馴染〟なんてとても思えないわ!!」


 「や、優しい…あ、ありがとう(今僕のことを名前で呼んで…)」


 「あ、やっ…べ、別にあんたを可哀想だと思って助けた訳じゃないんだからね! ただ私の視界内で泣いているのが気になって仕方がなかっただけなんだからね!!」


 「……ぷふっ」


 「な、何がおかしいのよ」


 失礼と思いつつも龍太はつい吹き出してしまった。

 最初はただ高圧的な性格だと思っていた彼女だがここまでくれば彼女の言葉は本心と逆の事を口にしている事はさすがに理解できる。そして……彼女が不器用ながらもとても優しい女の子であると言う事も……。

 

 「と、ところで月夜さん」


 「待ちなさいよ。その、ここまで関わって来たんだからもういい加減に名前で呼びなさいよ。べ、別にあんたに名前で呼んでもらいたい訳じゃないんだからね! あ、それから私だけ名前で呼ばれるのはアンフェアだから私も名前で呼ばせてもらうわよ」


 取って付けたかのような理由を述べる愛美であるがその顔は真っ赤になりつつ、表情はとても喜びに満ち溢れていた。

 その嬉しそうな彼女の顔を見ると龍太の顔も釣られて赤くなる。


 うぅ…この空気の中で改めてさっき彼女の言った告白が真実か否かを聞き出すのは……で、でも有耶無耶にするのもなぁ。それにしても彼女は僕をどこに連れて行く気なのかな?


 今もなお独りきりにはさせまいと愛美は龍太の手をガッチリと握って離そうとしてくれない。


 「あの愛美さん。一体どこに向かっているのかな?」


 「私の家よ。とりあえず私の家であんたの話を聞いてあげるから黙って付いてきなさい」


 「君の家に僕を連れて行くの……?」


 「当然じゃない。あんな陰気臭い顔をしているあんたを見て見ぬふりをしたら目覚めが悪いわ。べ、別に勘違いするんじゃないわよ! あんたを心配している訳じゃないんだからね!!」


 ……ええっ!? そ、それは不味いんじゃないかな。しかも愛美さんはすっかり忘れているみたいだけどつい数分前に君は僕に告白してきたんだよ。そ、そんな男の人を自分の家に上げていいの?


 こうなってくるとますます先程の告白が真実か聞き出せない。かと言って自分をあそこまで守ってくれた彼女を突き放す事もできずに結局は彼女に強引に自宅まで連行されたのだった。


 龍太がツンデレ少女に連行されているその頃、彼を傷つけた元幼馴染の天音は彼氏である安藤と一緒に近くのカラオケへと寄り道していた。


 「いやーそれにしても本当にうっとおしい女だったわね。あろうことか私の大知君に事実無根の戯言を吐いてさぁ」


 「そ、そうだな。いやー俺もあの月夜のヤツには迷惑してんだよ。毎日教室に行くたびにまるで彼女面をして関わってきてさぁ……」


 下校時の玄関でのやり取りで鬱憤が溜まった天音は当初の予定である安藤の自宅ではなくカラオケ店へと向かうとそこでストレス発散をしていた。ひとしきり歌うと天音は甘えるように安藤の隣に座ると先程の出来事について語り出す。

 天音は完全に愛美の言っていた事が全て虚偽であると決めつけているが真実は違う。毎日教室で顔を合わせる度にねちっこく絡んでいるのは安藤の方だ。だがそんな真実を彼女に言えるわけもなく彼は適当な作り話を彼女に刷り込ませて有耶無耶にしようと画策する。


 だが焦りと同時に安藤の中には龍太に対しての嫉妬心も芽生えつつあった。


 くそっ、何であんなひょろっちいチビが俺様の愛美に慰められてんだよ!? 本当ならあの女は今頃は俺の物になっているはずなのに……!!


 自分が今でも狙い続けている大本命の愛美があの金木とやらの為に激怒している光景は面白くなかった。いつも自分には素っ気ない態度を取られているから猶更だ。


 身の程違いの考えにも程があるとは正に今のこの下種男のことを言うのだろう。そもそも現在恋人を持つ人間がする思考ではない。

 だがこれまで数多くの女と遊んできたこの男にとって天音はただのキープにすぎなかった。少し誘導して口説いたらコロッと靡いた都合の良い女。そう、自分に今も甘えているこの女も所詮はこれまで遊んできた女達と同じく替えの利く代用品と言う認識でしかない。


 そんな馬鹿な男に完全に心を奪われている哀れな木偶人形はなおも耳障りな言葉を垂れ流す。


 「でも私に対して未練たらたらの元幼馴染と、因縁付けて人の彼氏に色目を使うストーカー女。ある意味お似合いのカップルよね。いっそのことあの二人がくっつけばいいんじゃないの? そう思うわよね大知君♡」


 「……そんな訳ねぇだろ。むしろ大本命の愛美と暇つぶしのお前を交換してぇよ」


 「え、何か言った? 小さくてきこえなーい」


 「何でもねぇよ……はぁ……」


 自分にべっとりと酔いしれている天音に対して聞き取れないほどの掠れた声量で呟いた安藤の心無い言葉。だが舌打ち交じりのその暴言は盲目の愛に囚われている少女には聴こえなかったのだった。



 

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