幼馴染に縁を切られました
新連載です。この作品の方もよければ読んでください。
その最悪の悲劇は高校1年生となった少年、金木龍太の身にいきなり訪れた。これまで長年一緒に居たはずの幼馴染の少女から想像もしなかった一言が突きつけられたのだ。
「もう今日限りで私とあんたの関係は終わりだから」
それは本当に唐突過ぎるサヨナラの言葉であった。
呆然とする自分の目の前で冷え切った視線を向けるのは小学生の頃からずっと一緒に仲良くしていたはずの少女、高華天音であった。
均衡のとれたプロポーションに自分と同じ黒色の長髪をしておりクラス内でも人気を誇る。本来なら平凡な自分と縁がない人物かもしれないが小学生の頃からずっと仲が良かった人物のはずだ。
だがその幼馴染はアッサリと自分との関係を切ろうとしており、その事実をにわかには受け止め難い龍太は首を傾げながら質問をする。
「えっと……関係は終わりってどういうことかな?」
「言葉通りよ。今までみたく馴れ馴れしく接する事はもうやめてほしいって意味よ」
何か大事な話があると言われて放課後に体育館裏に呼び出された龍太は幼馴染の言葉を未だに理解できなかった。
どうして……どうしていきなり僕は拒絶されているの? 何か天音を怒らせるような事でもしちゃったのかな……?
確かにこれまで長年連れ添っていた幼馴染同士とは言え軽い喧嘩は何度かしたことがある。だがこうまで拒絶の色を示された事は初めての経験で龍太は戸惑いながら原因を探ろうとする。
でも思い返しても天音を怒らせるような事をした記憶が……。
記憶を掘り返しても彼女を怒らせるような行動に思い当たる節はない。ましてや今日は〝特別〟な日なのだ。こんな大事な日に彼女を不快にさせるなどあり得ない。
実は今日は目の前の幼馴染である天音の〝誕生日〟なのだ。毎年誕生日に龍太は手作りのプレゼントを贈っており今年はマフラーを編んで来た。時期外れかもしれないが去年の冬に彼女のマフラーがほつれてしまったので来年に備え、そして大切な幼馴染を祝いたい一心でここしばらくはプレゼント作りに没頭していたのだ。
もしかして最近プレゼント作りに必死になって蔑ろにされたと思ったのかな?
手作りプレゼントと言っても手抜きプレゼントは渡したくなくここ最近の放課後は急いで自宅に戻っていてプレゼントの作成に必死になり、そのせいで放課後に天音と遊びに行く事が出来ないでいた。もしかしてそのせいなのかと思い龍太は頭を下げて謝罪する。
「ごめんね天音。実はここ最近放課後一緒に居られなかったのは天音にプレゼントを作っていたからなんだ! 別に君の事を蔑ろにした訳じゃなくて……」
少し言い訳がましいと自覚しつつも龍太は今日渡す為に用意していた手作りのマフラーをカバンから取り出すと天音にプレゼントしようとする。
だがここで信じられない行動を天音は取ったのだ。
「はあ? 何意味わからない勘違いしてるの。てゆーか何この安っぽいマフラー」
なんと天音は渡されたマフラーをまるでゴミでも捨てるかのように足元に放り捨てたのだ。
「あ…え……?」
「ふん、高校生の女性相手にこんなしみったれたプレゼントを素で渡すなんてね。だからもうあんたとの関係は終わりだって言ってるのよ」
そう吐き捨てながら天音は足元に放ったマフラーを踏みつけた。
不器用な自分が何日も指を針で怪我しながらも懸命に編んだ想いを踏みにじられて龍太は呼吸が出来なくなるほどのショックを受けてしまう。
今までの天音ならばこんな人の心を踏みにじる行動はあり得ない事だった。
『わざわざ手作りで作ってくれたの。ありがと、大事にするわ』
去年までの彼女はそう言いながら自分の手作りプレゼントを心から喜んで受け取ってくれていたのに……。
だが何よりも龍太が一番ショックを受けたのは次の彼女の口から出て来たセリフだった。
「実は昨日の放課後に私さ別クラスの安藤大知君と付き合ったのよ。だからアンタにもう馴れ馴れしくしてほしくないって言ってるのよ」
自分の耳に飛び込んで来た情報に龍太はとてつもない喪失感を覚えた。
実は今日の放課後に龍太はある一大決心をしていた。それはずっと自分の隣に居た天音に自分の長年の想いをぶつけるつもりだった。天音に好意を抱いていたのは高校入学前からであった。だが勇気が出ない事、それに受験間近で余計な考えを持たせたくないと言う理由から先延ばしにしていた。そして高校入学してすぐにやって来る彼女の誕生日に長年の想いをプレゼントと共に伝えようと考えていたのだ。
それなのに……もう天音には恋人が居ただなんて……。
よくよく振り返ってみればここ最近の天音は自分と一緒にいてもどこか上の空だった気がする。恐らくはその頃から今話していた安藤君とやらと関係が築き上げられつつあったのだろう。
そんな失意の底に叩き落とされている龍太に対して幼馴染の対応はどこまでも冷え切っていた。
「もう私には彼氏が居るの。それなのにいつまでもベタベタされるのは迷惑だから今まで見たく気軽に声かけないでよ。それから下の名前で呼ぶのも禁止よ。もし呼ぶようなら無視するから」
「そ、そんな。ちょっと待ってよ天音」
「………」
いくらなんでも長年一緒に居た関係がこんな終わり方なんて認められなかった。たとえ自分の想いが伝わらなかったとしてもせめて幼馴染としての関係まで断つ必要はないはずだ。
だが天音は目の前で名前を呼ばれてもまるで無視。今言ったようにこれからは名前で呼ぶ事も許さないみたいだ。
そこへ更なる絶望に染まった光景が追い打ちとなり龍太へと叩きつけられる。
「おーい何やってんだよ天音。そのチビ誰だよ?」
「あっ大知君♡」
背後から自分の名前呼ぶ別の少年の声に反応して振り返る天音。
そこに居たのはいかにも二枚目と言える顔立ちをした少年であった。
今この人の事を大知って……じゃあこの人が天音の……!
視線の先では自分に名前を呼ばれてもシカトしていた天音が嬉しそうにすり寄っている。
その光景にもう龍太は泣き出してしまいそうだった。あの笑顔はこれまで自分に向けていたはずだったのに……。
「あっ、もしかしてソイツお前の言っていた幼馴染君?」
「ちょっとやめてよその言い方。正確には〝元幼馴染〟よ」
そう言うと天音はまるで現実を見せつけるかのように自分から大知の腕に抱き着いた。
自身の体を密着させながら頬をピタッと肩に押し付けもう自分の心はこの人のものだとアピールせんばかりに。
「いやー悪いな幼馴染君。でもこれは天音の選んだことだ。間違っても逆恨みしないでくれよ~」
そう言うと大知は彼女と共に背を向けてその場を離れていく。その際に安藤は呆然としている龍太を見ると嫌味ったらしい笑みを浮かべて天音を抱き寄せる。
「それにしても退屈な学校生活もお前のような可愛い恋人が居れば全然苦にならないよ。むしろ学校に来るたびに天音に会えると思うと毎日が楽しいよ」
「もう、私もだよ大知君♡」
最後まで自分に見せつけるかのように反吐が出そうなやり取りをしながら二人はそのまま体育館裏から姿を消した。
「うぐっ……ああぁぁぁ………」
恋仲どころか幼馴染としての関係すらも壊されてしまった龍太は踏みにじられたマフラーを抱きしめながら泣き続けた。
こうして彼は初恋の人に告白をする機会すらも与えられなかった。