君への愛を世界に叫ぶ
4
町全体が寝静まる時間帯。
ベッドが部屋の大半を占めているような狭い部屋。町で利用している宿屋の一室に、イグネイシャスの姿があった。つい先ほどまで、この部屋に他者の姿があったが、今は彼一人だ。
「協力者」からの情報で、ヴァンが『眠れる森の魔女』への手掛かりを得たことを知り、ニヤけた笑みを浮かべながらも、瞳に思案げな色を浮かべている。
先程までのやり取りを反芻していた。
「お前は、どう思うんだ? 『眠れる森の魔女』っていう奴は存在すると思うか?」
というイグネイシャスの問い掛けに対し、
「……いえ、夢物語の類かと」と協力者は応えた。
「まあ、普通そう考えるよなぁ」この時、イグネイシャスはそんなを感想を漏らす一方で――だが、臭うな――と胸の裡で呟いていた。
昼間の町への鋼鉄獣の侵入は、彼が仕組んだものだ。中央と繋がりのある魔法盤騎手――ヴァンの実力を探るための計画だった。
『宝の地図』とわざとらしく記した地図を子供たちの手に渡るよう細工し、遺跡の入り口をあらかじめ開放しておいた。
遺跡へ意気揚揚とやってきた子供たちが鋼鉄獣に襲われる――それを彼が助ける、そうすることで町の住人は誰もイグネイシャスに疑いを抱かなかった。
そして、予想外の収穫があった。あれだけの数の鋼鉄獣が守っていた遺跡となると、それなりに貴重なデータや品物が眠っている可能性がある。
――特殊なリズムで扉が叩かれる。
「入れ」彼は表情を改め、命じた。
扉を開け、夜の闇を塗り込めたような漆黒の髪、氷青色の瞳の青年が入室してきた。精悍な顔つきで、長身の引き締まった軀に迷彩服を纏っている。彼は死刑執行人のような感情のない眼をしていた。
「よお、パガニーニ。元気にしてたか?」イグネイシャスは、唇を曲げた厭らしい笑みを浮かべながら尋ねる。
「行動に支障はありません」と平淡な口調で、相手は応える。感情が欠落したように、顔には一切の表情が見受けられない。
「ふん、相変わらずつまらん奴だな」イグネイシャスは不機嫌さを露わにしながら、身勝手な科白を吐く。
「……」イグネイシャスの嫌味にも、直立不動の姿勢をとり、パガニーニは何も反応を示さない。
「まあ、いい。お前に任務を言い渡す。ヴァン=ホーエンハイムという小僧が近隣の遺跡について重要な発見をしたらしい。その調査を追跡し、もしオートマータに危険を及ぼす技術を発見したのならそれを奪取しろ」
真面目な表情、真剣な口調で放った彼の言葉に、「了解」とパガニーニは一言そっけなく応え退室する。
定規で測ったかのようにキビキビした動きだ。
「本当につまらない奴だ」イグネイシャスは不機嫌な口調で愚痴を漏らした。