表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/48

君への愛を世界に叫ぶ

   2


 カーテンの隙間から差し込む朝の陽射しが、山狩りで犯罪者を追い詰める灯明のうようにヴァンを苛んでいる。

 彼は自宅で新聞を広げていた。見出しには、各地に怪物が現れたという文字が(おど)っていた。像がボヤけているが、幾つか写真が掲載されている。

 なるほど、そこにはホムンクルスでもオートマータでもない、異形たちが写っていた。

 ――人面の頭部に巨大な蛇の身体を備えた怪物。

 ――半人半牛の姿の怪物。

 ――蜘蛛の身体に人間、猫、蛙の頭がはえた怪物。

 記事によると、彼らは町を破壊し住民を喰らっているらしい。点けっぱなしにしたラジオからも、続々と怪物出現の報や現地の情報が流れてくる。

 ……彼はテーブルに新聞を投げ出し、顔を手で覆った。メディアだ……――恐らく原因は彼女だ。それ以外に考えられない。

多分、各地に現れている怪物は魔導兵器だ。ヴァン自身も一度、食人鬼(オーグル)と遭遇している。理屈は解らないが、それらがメディアの目覚めに反応し覚醒したのだ。

 長いこと、彼は同じ姿勢を取っていた。

 一本一本、指を引き剥がすように、ヴァンは顔を覆う手を外す。

 そして、テーブルの上に放ってあった洒落(しゃれ)た装飾の封筒を手に取った。ぞんざいな手つきでその封を解く。

 中から一枚の便箋が出てきた。文面は「遊びにいくから、よろしく頼むわ」の一文のみだ。それと、署名としてアンジェラと名が記されている。

 いつ頃町に着くのかなど、大事なことがごっそり抜け落ちていた。

あの人も相変わらずだな、ヴァンは力なく笑う。

 昔から適当な人だった、と師のことを思い出す。アンジェラは両親の友人で、彼ら亡き後、魔術や剣術、遺跡に関する知識を授けてくれた人物だ。

 もっとも、彼女が杜撰(ずさん)な仕事しかしないせいで、遺跡のセキュリティが作動――悲鳴を上げて逃げ出す羽目に陥ったことも一度や二度ではない。

 しかも、彼女の逃げ足は天下一品、いつも弟子を置いて真っ先に逃げ出すのだ。

「ヴァン、ニュース聞いた!?」玄関の扉を蹴破らんばかりの勢いで開け、パトリシアが飛び込んできた。

 ヴァンは、無理やり回想から引き戻される。それは現実逃避に過ぎなかったから、彼にも都合がよかった。

「もう、カーテンも開けないで何してるの」

 パトリシアが部屋に二つある窓のカーテンを乱暴に開ける。そして、ヴァンに近寄ってきた。

「ニュースは聞いてるみたいね」彼女は緊急事態をがなり立てるラジオに目線を向けながら言う。

「ねえ、この町に怪物が来たらどうするの?」

 パトリシアは不安そうな顔で尋ねる。「どうしよう」ではなく、「どうする」だ。

 そう、(すべ)はここにある。魔法盤騎手(ターン・ウィッチ)――ヴァン自身だ。

 しかし、パトリシアは彼に戦ってほしくないようだ。彼女の気遣わしげな表情が、何より雄弁にその心情を物語っていた。

「……僕がどうにかする」とヴァンは声を(かす)れさせながらも応える。

この町が襲われた場合だけでなく、今、この世界で起きていること事態に対する姿勢の表明だった。

「……」彼の瞳に宿る光の強さの前に、パトリシアは目元を歪め口を閉ざす。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ