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神話 伝説 歴史 詩集

古代エジプト詩『ツタンカーメン讃歌』

掲載日:2023/02/25

 世界の神話伝説や歴史を題材にした詩、第12弾。黄金のマスクで有名な古代エジプトの王、ツタンカーメンを讃えます。ツタンカーメン王墓発見100周年の昨年には完成させられませんでしたが、この度遅ればせながら出来上がりました。この詩をツタンカーメン王その人と、自分が尊敬するエジプト考古学者の吉村作治先生や河江肖剰先生、河合望先生や大城道則先生をはじめ、古代エジプトを愛するすべての方々に捧げます。

 古(いにしえ)の エジプト治めし諸王の中で

 一際名高き王(ファラオ)なる ツタンカーメンをば、いざ讃えん。


 おおツタンカーメン、謎めいた少年王。まずは語らん、御身の血筋。 

 祖父のアメンヘテプはエジプトの 黄金時代に君臨したる偉大な王。

 父のアクエンアテンはテーベより アケト=アテンへ都を遷し、

 冥界の神(オシリス)、母なる女神(イシス)、隼神(ホルス)ら古き神々を捨て去りて、

 唯一神(アテン)のみを信ぜよと、民に強いたる異端の王。

 義理の母なるネフェルティティ、アクエンアテンの正妻は、気高き美貌の王妃なり。


 ツタンカーメン、父亡き後、齢(よわい)九つばかりにて 

 ナイルの賜物(たまもの) エジプト治める王となり、

 父が招きし王国の 大いなる混乱収めんと、

 数多まします神々の王、最高神(アメン)に再び帰依(きえ)したり。

 おおツタンカーメン、苦渋の決断せし王よ。

 偉大な祖父と異端の父、最高神(アメン)と唯一神(アテン)の狭間にて、

 幼き御身はどれほど迷い、悩みしことか。

 その後も乱れた国を建て直さんと、

 御身は日夜 勤めに励み、王の責務を果たしたり。

 病弱なる身を汚れなき 亜麻の衣にて隈なく包み、

 ふらつく足と杖もて支え、文武両道たらんと努めたり。

 王宮にては笏(しゃく)を手に、宰相アイの助けを借りて、政(まつりごと)の決定下し、

 戦場(いくさば)にては采を振り、将軍ホルエムヘブに守られながら、二輪戦車(チャリオット)走らせ弓を引く。

 国のため、民のため、世界の真理(マアト)を維持するために。


 多忙な日々を過ごす若き王、御身を労(いた)わり、支えしは、

 アンケセナーメン――御身が腹違いの姉にして、同じ父持つ王妃なり。

 御身と王妃は幼き日より 共に学び、戯れて、気心知れた間柄。

 アンケセナーメン、勤めに疲れし御身の肌に、心安らぐ香油を塗れば、

 ツタンカーメン、御身は微笑み、王妃のために のど潤す水を手ずから注ぐ。

 世継ぎとなるべき子宝に 恵まれることこそあらねども、

 二人は肩寄せ、笑い合い、時には狩りを楽しみて、

 時には盤上遊戯(セネト)に打ち興じ、仲睦まじく暮らしたり。


 されど最高神(アメン)ら神々が 定めし運命は無慈悲なり。

 若き王は儚(はかな)くも、二十歳(はたち)に満たずして亡くなりぬ。

 その亡骸は幾重にも 亜麻布巻かれ、黄金(こがね)の仮面を被せられ、

 四重の棺(ひつぎ)、四重の厨子(ずし)に納められ、弔われたり、丁重に。

 金箔張りの番人像、黄金(おうごん)の玉座に金色(こんじき)の寝台(ベッド)、天蓋(てんがい)つきの二輪戦車(チャリオット)。異国(とつくに)ミタンニから贈られし、天より降りたる鉄の剣。汚れなき亜麻の衣(ころも)に麺麭(パン)、肉、葡萄酒(ワイン)。おびただしき数の埃及俑(ウシャブティ)――死後の世界 イアルの野にて、死者に代わりて働く人形――等々、数多の財宝、弔(とむら)いの品に囲まれて、葬られたり、小さき墓に。


 以後、3000年の長きに渡り、御身は眠り続けぬ、安らかに。

 時がナイルと共に流れゆき、ハワード・カーター、英国の 若き考古学者が

 苦労の末に、御身の墓を探し当て、閉ざされし扉に穴穿(うが)つまで。

 そのとき、カーターを支え援(たす)けたる、英国貴族カーナヴォン、


「何か見えるかね、カーター君?」


 扉の穴に 蝋燭一本差し入れて、向こうの闇に目を凝らす

 カーターの背中にそう問いかけぬ。

 するとカーター、振り返り、静かにかく答えたり。


「はい、素晴らしいものが――」


 かくて3000年の時を経て、眠りから覚めたる少年王。

 その財宝の数々は、いずれも絢爛豪華、最高の品。

 されどカーター曰く、真(まこと)の宝はそれらにあらず。

 王の姿写したる 金箔貼りの人型棺、その額に置かれし可憐な花輪。

 枯れて色褪せたる この花輪こそ 3000年の時を超え、今に伝えられし愛の印。

 おそらくは最愛の妻 アンケセナーメン自らの手で 供えられたる愛の証。

 その美しさには、かの名にし負う 黄金(こがね)の仮面もかなうまじ。

 おおツタンカーメン、かくも愛され、死を悼まれし少年王。

 この歌をもて、御身を讃えん。


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