行ってやるよ
目の前に男がいる。
どうしても僕を連れて帰りたいらしい。
そりゃあ、囚われの身としてはここから出られるのはありがたいけど。
うーん。
でもさ、困惑するのが当たり前というものでしょ?
初めて会う、そこそこの年の男の執念はきびしいよ。
だから、僕は拒否をしたんだけどね。
右手を払い除け、頭を振り、体重をかけ。
何回もイヤだって。
なのに、男は楽しそうに笑ってるんだ。
「大丈夫、すぐに落ちると思ってないから」とか言うし、
「3回は様子見でいいよ」とか言ってるし。
どういうこと?
しかもだよ?
「キミの里親、ちゃんと探すからね」ってさ。
僕を連れて帰りたいわりに、すぐ誰かに渡すなんてね。
まぁ、可愛い子が引き取ってくれるならいいけど。
なんか、だんだんと行ってもいいかなって思えてきた。
この男も、悪い奴じゃないのかもって。
真剣な目だったりするし、めちゃくちゃ楽しそうだし?
後から来た友達も、似たり寄ったりの笑顔だし?
「えっ、マジ? すげー!」って、友達のテンション上がってるよ。
はぁ……わかったよ。
行ってやるよ。
悪いね、囚われのみんな。
先に行くよ。
「うしっ!」
声を抑えた男のガッツポーズとともに。
クレーンで吊られた僕は穴に落ちて、男の腕の中へ収まった。
「ウサギのぬいぐるみゲット〜」