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緋色の少女と……

王都

 

国内最多の人口と最大規模の市場、そして各種国家機関の最高位が揃うこの国一番の城塞都市。

 

中心部にはこの国を象徴する国で一番豪華で美しい王の城がある。その周辺には王族や貴族、それと一部富豪の屋敷が立ち並び、更に離れて市場や一般住居が乱立。そして地下や人目のつかない路地裏では神すらも救いがたい者共がたむろっている……らしい。

 

つまりはここはこの世界の縮図のような場所である。人の夢とこの世の地獄、そして何も知らない者たちの日常が今日もどこかで行われている。

 

そんな王都の入り口にある大きな門の下を馬車に乗り潜りながら私は初めての景色に胸を踊らせていた。

 

「(ここが王都ですか。外から見ても大きさが凄いです)」

 

 

 

現在位置 王都 入口付近 馬車内

 

 

 

「おー相変わらず騒がしい所だな」

 

「ミツキさんは以前ここに来たことがあるのですか?」

 

「仕事でな。ちょっと大きめの仕事をしたらここへ呼出されて。これで三度目だ」

 

3回もここへ来たのか。ちなみに私は初めて。ならこの場で動く時があるのであれば彼に案内を頼もうかな。

 

「じゃあこれもよくある事ですか?」

 

実は門から大通りへ入った辺りからある事が気になっていた。馬車が通る道の沿道に人が立ち並んでいるのだがどうやら私達の馬車を見ているようなのだ。試しにこちらに手を振る子供に手を振り返してみた。するとこちらに気づいたようで笑顔で母親らしき人に喜んで報告していた。

 

「やっぱり見られてますよね。これはどういう事でしょうか」

 

「俺の時はこうはならなかったぞ。誰か俺らを見世物にしたいやつでもいるのか?」

 

見世物か。学術的な知識ばかりで俗的な物は詳しくないが確かに籠の中の鳥の様な気分にもなる。誰かの黄色い声が段々鳥のさえずりにも聞こえてくるかもしれない。

 

「聖女様ー戦争がんばってー!!」

 

「勇者ー!!俺らの代わりに戦ってくれてありがとー」

 

「結婚してー!!」

 

ワーワーキャーキャー

 

「まさか知らされてないだけでパレードでもやってるのか?俺聞かされてねえぞ」

 

「パレードが普通どのような物か存じ上げませんが尋常じゃないくらい歓迎されていますね。あ、あの横断幕『勇者万歳!!聖女万歳!!』ってありますよ」

 

「おいおい、世界を救う英雄じゃあるまいし……」

 

初めての王都は入る前の道中よりかなり騒々しく、楽しそうな所だという事は分かった。そして人が作る道を辿るように私達の馬車は目的の場所へ行く。

 

そして少しして馬車が止まった。

 

「ここが軍の施設ですか?私が想像していた所とは随分かけ離れておりますが」

 

「すまない。俺も軍の施設かどうかは断定できねえな。だけどこれはまず違うんじゃないか」

 

馬車を降りた私達の眼の前にあるのは円型で大型の施設。石造りで重厚な建物、だけどこか血生臭いような独特の雰囲気が漂う異様な場所。それに私達を取り巻く人混みの中に、何やら物騒な業物を担ぐ筋肉質な男や豪勢な杖を持った綺麗なお姉さんがちらほら見受けられる。

 

「じゃあここは一体?そもそも何故ここへ連れてこられたのでしょう」

 

「闘技場だよ。今日は軍の貸し切りで君たちには他の勇者達と戦ってもらうから」

 

人混みの中から知らない女性に声をかけられる。

 

「ああ、今行くからまってて。そこちょっと失礼します。あ、お姉さんいいお尻ですね。お兄さんも凄い筋肉してる、後で遊ばない?」

 

しかもなんかこっちに近づいてきた。

 

 

 

「変態だ。逃げるぞ」

 

「ええ、私も嫌な予感がします」

 

「ああっ!!ちょっと!?待って……ふっ!!」

 

その者は人混みを掻き分けて私達の前に姿を表した。

 

「ふー、待たせてごめんね。僕が声の主さ」

 

「えっと、何方でしょうか?」

 

「僕は君たちの案内人。名前は……ま、今は知る必要ないか」

 

14、5歳程の黒髪ショートの女性、いや幼さの残る少女。案内人と名乗る彼女は黒いドレスの様なデザインの鎧を身に着け、戦う者であると表している。だけど可憐かつ(鎧越しだが)細身でスタイルもよく、戦闘なんかせずそのまま舞踏会にでも行ってしまいそうな風である。

 

「で、その貧に……修道服の彼女が噂の聖女様のセレネ君かい?」

 

「はい、そうですよ」

 

「なあ、今こいつ貧乳って言いかけたよな」

 

「じゃあ隣のオマケみたいなそれがミツキ君か。詳しい話は闘技場の中で話すからとりあえずついて来て」

 

ーーー

 

私達は彼女に案内され闘技場内の控室に通される。微かに汗臭さとと鉄臭さがする、あまり長居はしたくない。

 

「おいおい、本当に通す先ここであってんのか?」

 

「仕方ないさ、だってこれも上の決めた事だから。僕みたいな一兵卒は従わないと出世できないからね」

 

「でも、何故闘技場へ?」

 

「君たち以外の2名が腕試しで殺し合ってみたいってうるさいから仕方なく模擬戦を始めたんだ」

 

「ってやっぱり戦うんですか……あんまりそうゆうのはやりたくないんですけど」

 

「これから戦争なんだし諦めてくれないと。上は上で民衆のいいプロパガンダになるから喜んで飲み込んでくれてたし偉い人が期待してるからちゃんと戦ってくれよ」

 

「おい、それでいいのか国家機関」

 

これには私もミツキさんと同感だ。外にいた私達目当ての民衆もこれに振り回されなかったか心配になる。それと外のパレードについてはどうなのかな?

 

 

 

「え、パレード?何それ?」

 

その事を突きつけてみた所意外な反応だった。

 

「え、ご存知でないのですか?」

 

「ここに来る途中、俺らを一目見ようと道に人が集まっててな。お前らが主催とかじゃないのか?」

 

「あー、もしかしたら最近巷で話題になってたからかな?ギルドとか貴族とかの間でもかなり情報が飛び交っているそうだし。それに、軍の予算はそんなところに割かれない」

 

「((闘技場使うのにもお金がかかりそうだけど……))」

 

 

 

それからも質問と応答が続き、そのうち雑談になりかけた時、控室の扉が叩かれる。

 

「聖女様、お時間になりました」

 

「おっと、そろそろ君の番みたいだ」

 

「時間ってまさか、やっぱり私戦うんですか!?」

 

「Exactly。ちょっと話してくる」

 

「棄権……」

 

「諦めろ、ここは腹をくくるしか無い」

 

案内人の彼女が外の者と数言交わした後、私達に向けてのこう言った。

 

「第4試合は銀の聖女セレネ ブラインドと赫巫と狛犬ルナシー ローケプヘンだそうだ。君も災難だね」

 

災難なら棄権をさせてくれれば嬉しいがそうはならない。やっぱりミツキさんの言う通り腹をくくるしか無いのか?

 

「えっとその、やるならやっぱり全力で戦ったほうがいいですよね?」

 

「うん、勿論。観客もいるけど客席にしっかり結界が張ってあって流れ弾が当たる心配はないから全力を出してくれよ」

 

観客もいるのか。それなら一般の方は……え、一般もいるの!?なんだかさっきとは別の意味で急に緊張してきた。

 

「それもそうですが、お相手が怪我でもしたら危ないのでは?」

 

「それこそもっと平気だよ。彼奴等はそもそもこんなお遊びで怪我するたタマじゃないから安心して殺し合ってきてね」

 

「で、でも……」

 

「ほら、早く行かないとブーイング来ちゃうよ?早くしな」

 

私は案内人に背中を押されて部屋を押し出された。これはもう完全に後戻りはできない。曲がった先に見えるあの大きな入場ゲートから漏れる光の先に相手の方がいるのだろう。

 

「はぁ……すぐに投降できればいいですね。神様、どうか私をお許しください」

 

最後に神に祈る。手を合わせ目を瞑りこれから起こる事の許しを請う。勿論私が許されるは神のみぞ知る事である。だけど天罰を受ける覚悟はしておかないと。

 

外から聞こえる観客の叫びが実況者の声で小さくなり、そして再び熱狂した。それに呼応するかの様に私の前の入場ゲートが開く。




ー--




ーーーさあ、間もなく始まります第3試合!!次なる勇者の入場です!!

 

 

 

歓声と怒号が響く闘技場、修道服の私とは一番縁遠いはずだった所に立っている。ゲートが開かれて円状のフィールド内の中心へ歩を進める。

 

 

 

ーーーおおっと、この黒と白のコントラストが美しいこの高貴なお姿、第3試合で姿を見せたァ!!銀の聖女 セレネ ブラウンが闘技場に降り立ったぞー!!解説の□□さん、彼女についてはどう思いますか?

 

ーーーさあ?育ちが育ちだから魔法はともかく身体的な問題で戦いになるかどうかさえ危ういんじゃあないの?

 

ーーー□□さんからは珍しくストレートで辛辣な意見が飛び出しました!!聖女セレネ、この評価を覆すことはできるのかぁ!!

 

 

 

「(おそらく難しいですね)」

 

実況解説からボロクソに言われたがこれは仕方がない、だって白兵戦なんて初めてだもん。でも、正直、人と戦うなんてしたくないからもっと言ってほしい。そうじゃなきゃ、あんな魔法を出せる私が弱いって言い訳ができないから。

 

 

 

ーーー対して相手コーナー、赫巫と狛犬ルナシーだ!!一試合目から溢れ出る殺気は留まることを知りません!!

 

 

ルナシーと呼ばれる彼女はフィールドの中心付近で既に待機していた。

 

意外な事に少女だった。それも私より年下の10歳前後でどう考えても戦場に出していい年の者ではない。

 

茶髪で瞳は赤、赤い頭巾を被り年相応な赤と白で纏められたフリフリの服を着ている。それだけならばどこかで聞いたような話の主人公の様だが服には所々血か飛び散り、背中には巨大な斧、腰には血のついた鉈を装備している。顔も年にしては大人びていて数々の修羅場を乗り越えてきた風を漂わせる。巫女と称されるにはかなり血生臭い。

 

しかし調教師ともあっただけあって彼女自身の数倍もの巨体を持つ灰色の老いた狼を連れている。彼女は伏した狼に馬に乗るように跨って乗っていた。そして観客のことなど興味が内容に反応を示さず狼に指令を下している。数多の古傷と老いが進んだ風格のある狼と赤い少女、まるで貴族の娘とそれを見守る老紳士の様だ。

 

 

 

「……これでお願いします。この程度の相手なら狼さんでも簡単に倒せるので一人でやってください」

 

彼女は狼から降りてそう命令を下す。

 

「………」

 

狼は彼女を無視して眠りにつこうとする。

 

「口答えしないで早くやってください」

 

シャキン

 

「………」

 

 

 

彼女は持っている鉈を彼にチラつかせる。刃渡りが古傷の大きさとだいたい同じな事から彼は何度か彼女に切られていそうだ。狼不服そうな返事をしながら彼女の指示を受け入れてゆっくり体を起こした。調教がそこまでなってないらしい、見るからに乗り気じゃなさそう。

 

 

 

ーーーさーて、両者闘技場中央にて対面しました!!

 

 

 

試合前の挨拶、彼女ルナシーと向き合う。

 

「セレネさんですか。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、といきたいのですか争い事は苦手で戦いはあまりしたくないです。もしあなたが良ければ不戦敗ってできますか?」

 

 

 

ーーー戦いの前嵐の前の静けさ!!今二人はどんな会話を交わしているのかぁ!!それは皆さんお待ちかねの戦いを通して教えてもらいましょう!!

 

 

 

「細かい事は嫌いなので不正なら戦いの間にやって下さい」ナタシャキ-ン

 

「試合開始と同時に私が投降して安全にっていうのは駄目みたいですね」

 

 

 

「おーい!!生き残って帰ってこいよー!!」

 

観客席から人一倍大きいミツキさんからの応援の声がする。私自身戦わない気満々だったけどこれじゃ逃げられないな。

 

ーーーReady……

 

 

 

「狼さん、頼みますよ」「………」

 

ルナシーさんが鉈をしまい狼が構える。獲物を狩る姿勢だ。これから仲間になるというのに相手は完全に殺す気でいるらしい。

 

 

 

ーーーFight!!

 

「行け、狼さん」「………」

 

ダッ

 

「(えっと、私はどうすればいいので……っ!?)」

 

ルナシーさんの狼は開戦と同時に私に向かって駆け出した。巨体からは想像もつかない俊敏な動きで私との間合いを詰める。

 

一方で私は何をするかすぐに判断できず、何をするでも無く棒立ちでスキを晒すだけである。せめて魔法で身体能力を強化でもしていれば判断に間に合ったかもしれない。だが間合いを詰められてしまい動こうにも既に遅し。相対的な圧倒的なスピードに翻弄され少しづつ傷を負わされる。

 

「かっ……回復を……」

 

「させるな。頭を砕け」

 

「………」

 

「判断が致命的に遅いです。早くして下さい」

 

回復をしようと意識が狼から離れる。そこを突かれ狼は私に飛びかかり私を押し倒した。

 

「きゃっ!!え?嫌……っ……!?」

 

「………」

 

生暖かい鼻息が私に吹きかかる。狼の口から溢れる涎が頭のすぐ横に垂れた。

 

「ごめんなさい。これもお嬢の頼みです。私も死にたくないのでやるしかないんです」

 

「……?(誰の声?)」

 

こんな状態の中、誰かの声が聴こえてきた。実況でも、ましてやミツキさんやルナシーさんでもない、知らない男の声。何かを諦めたような仕方がないというニュアンスの声色で私に向かってだ。

 

「………」

 

狼は大きな口を開け、白く鋭い牙を見せる。

 

「あ……ああ……」

 

それから時間を待たずして私に噛み付く。左半身が狼の口の中に入り込んで、肋骨が折れて心臓が牙に貫かれる。

 

「あ"ぁっ!!痛い痛い痛いいだい!!」

 

「……」

 

狼は私の声など無視して顎の力を強める。このままでは本当に死んでしまう。

 

「っゔうぅ……(耐えた!)」

 

幸運な事に意識が落ちるには過剰な激痛のおかげで意識が落ちずにすんだ。あとはここをどう切り抜けるかだ。

 

「うぁ……やば……」

 

しかし、それも間に合わなそうだ。出血で段々力が抜けていく。おまけに視界まで霞んできた。そんな私の頭に過ぎったのは何故か私を噛む狼の痛々しい姿だった。

 

「(狼さん、すごい傷だったな)」

 

 

 

ーーーおっと!!大ピンチの聖女セレネ、ここでやっと魔法を使用するようだ!!

 

ーーーあの手の光、私も知ってそうな魔法だけどどこで見たっけ?

 

ーーーと、解説ありがとうござ……え、分かんないの?

 

私はかろうじて自由な右手にありったけの魔力を込める。少し目が痛くなりそうな程に手が白く輝き、その手を狼に向けて……

 

 

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