圧縮過多の超レーザー
現在時刻 午後6:00
夕焼けも落ち暗く、月も登り始めた頃
聖女、1人月の下
青白い月明かりを頼りに肉筆の書を読む。
「……よし」
「どうだ?何を出すかは準備できたか?」
なんて、綺麗で陳腐(判断基準は私)な言い回しを脳内で再生して現実から逃げる。人の少ない夜の田舎の街道だから誰かの迷惑にならない事は良いことであるけど危ない魔法を使うのは気が引ける。しかも自身の限界までの圧縮による効率化で式から数値ではない実際の威力の程がほとんど分からない。
「ええ。低出力の基礎的な光攻撃魔法を放ってみます」
私は研究書を馬車の座席に置いてきて辺りに何があるか見渡す。さすが平原、辺りに木の一本もない。数キロ先の森林や山がここからでも見える。射撃の的となる物が見当たらないくらいにここは平坦だ。
「んー、狙う物がありません」
「よかったら俺が的になろうか?魔法弾の処理は慣れてる」
「これから戦いに行く人にそんな危ない事任せられません。怪我したらどうするんです?」
今日は雲一つ無い良い夜だ。ここは一つ、夜空の星に向かってというのも案外悪い話じゃないかも知れない。
「えー。俺が的でも割といいと思うんだけど」
「駄目ですよ。とにかく安全に発射するのに空に向かって撃ちますよ」
馬車を背にして遠くの岩山の少し上の方、ちょうど山頂の上に明るい星が出ている。地面との角度が少々小さいからうっかり山に当たらないか心配だ。
私はそこへ手を向けて魔法を展開する。
手を中心に円状の攻撃魔法の式を展開し、その周りにリミッター用の制御結界を張ってそこそこの魔力を投入する。式の形に沿って光が発せられ暗い平原に一つの光の輪が出来た。
「おー!!なんかすげぇ!!」
ミツキさんは私の展開した式に興奮しているよう。私は私で別の意味で少し興奮している。
「(うわわっ!大きさの割に意外と軽めの魔法だ)」
それは見た目でなくスペック的な意味で。
そして、次に星が瞬いた時に合わせて発射の準備をして……今!!
「せいっ!」
【光柱 ピラーオブムーンライト】
ーーーーー!!
無音、そして遥か遠方でに着弾、爆裂。
山の向こうでは夜が明けたかのようにぱっと明るくなった。そして、すぐに元の夜となる。
「……え?」
「おおお!?凄い威力だったな。なんだ、セレネもしっかり強いじゃん」
「…………はぇ!?あ、はい」
「的になろうっつったけどやってたら死んでたな、俺が」
「ああ……はい、そうですね」
予想外の結果に頭が追いつかない中、ミツキさんには適当に返事をした。
たった今起きた事を整理しながら状況を纏める。
自身の数倍もある太さの光の筋、いや柱が地面をえぐり少しばかりの拡散をしながら遠くの山を削り爆散させた。犠牲となった岩山は目測数ミリ程削れている。
おかしい。いや、術式自体の理論は合ってるからなにもおかしくはないけど威力が予想よりも高すぎる。出力の機構やその他の構成に関わる基礎的な所は何も手を加えてない、もちろん魔力量は適正量。となると圧縮しすぎて抵抗が少なくなりすぎたか?もしかして回復魔法があんなに使えるのも実は魔力が無くて圧縮のやり過ぎで消費魔力が少ないからかもしれない。
「(圧縮後の理論値演算を王都に到着する前にやっておきましょう。それと威力の抑制も。これでは誤射が誤射ですまないです。死人が出てもおかしくない)」
「実験は成功だな。これでお前も戦えるってことが分かって安心したか?」
彼の言葉は次の事に集中した耳には入ってこない。その言葉を無視して私は2発目の用意をした。
「(……念の為)」
ふと、これを使うにあたり気になる事が出来た。先ほどよりも式に抵抗を追加し負荷をかけ威力を弱める。その上拡散を防ぐ機構も追加した。
照準の先に自身の指先を置いてから魔法を展開して……
「発射……っ!」
「おい、お前指巻き込まなかったか!?」
「いや、平気でしたよ。ギリギリ当たらずに済みました。ほら、生えてるでしょ?」
私は彼の手を取り私の指を触らせる。これなら多少の事は勢いでごまかせる。
彼は少しの動揺をしたあと私の指がしっかり5本ある事を確認して、心配そうな顔から安堵の表情へと変わった。
「お、おうそうか。なら良かった」
強引な手段であったが為か少し彼に引かれてしまった。
「でしょう?でも本当に当たらなくて良かった」
ーーー
嘘だ。今のレーザーは指に被弾した。照準は爪の先へ向けていたので指の怪我はない。しかし指先がほんの少しだけ火傷っぽくなっているので無傷とは言えない。それで威力の程についてはなんとレーザーが当たった面に沿って爪が消滅した。消滅、まさかとは思ったが本当に消えていた。
「(これが私の魔法。これを、戦いでは人へ)」
今の自分にあるのは式が正常に作動した少しの高揚感、それ以上の恐怖。
今の出力では指先が火傷して多少の痛みを感じた。しかし先程の威力の、もはや大砲の砲撃とも言えるような光の柱に巻き込まれたら当たった人は痛みを感じることなく一瞬で消え去り死体すら残さずに死ぬだろう。
しかも射程距離は遥か遠くの山すら範囲内にある。減衰も少なく消し炭にできる程。制御ができたとしてこの射程、この威力を誰かに向けて発したのなら。
そんな私に、私は恐怖した。今まで自分が誰かの命を奪えるなんて考えたことが無かったから当然初めての感覚であった。
「おーい!!」
「……そうですね。やる事は済みましたから行きます?」
「実験は終わっただろ?行くぞ」
私達は再び馬車に乗り込み長旅の続きを始めた。




