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聖女と勇者なんて昔話みたいじゃないですか?

「私はセレネです。あなたも戦争へ?」

 

「国に呼ばれてな。全く、お互い面倒な事になったな。さっきのアレで怪我でもしてたらそれどころじゃないけど」

 

「ははは……確かにそうですね。でも貴方が来てくれたおかげで汚されずに済みました。この恩は忘れません」

 

森の中を私とミツキさん、二人で歩きながら町へ向かう。

 

あの後私の荷物を確認しに戻ったら馬の足がやられ馬車が馬車の役割を果たさないガラクタとなっていた。幸い荷物は別のところに落ちていて何も取られないでいたから予備の服も着ることができたしリカバリは十分だ。

 

そして、隣で私と歩く彼はミツキ ミナモ。

 

深緑の髪の見た目が私と同じか少し年上の男性で……男性で……で……私の語彙ではこれ以上の形容はできない。本人には直接言い難いが彼には特筆すべき身体的特徴が存在しない。ついでに言えば精神的な特徴もたまに修道院へと訪れる若者と大して変わらず、英雄的な雰囲気は感じられない。代わりと言ってはなんだが白い片手剣を所持している事が唯一の特徴だろう。

 

「俺はただの一村人のはずだけど住んでた村で少し冒険者の代わりをしてた」

 

「冒険者さんですか。ああ、だから剣をお持ちで」

 

冒険者と形容するには肉付きが年相応な普通の村の青年に見える。勝手な憶測ではあるが冒険者というのは獣やら何やらを狩るのに鍛えてそうな気もするのだが。それでも彼は勇者と呼ばれる存在、このような者でも戦果が出せると期待されて戦場で戦う事となったのだろう。

 

「(また冒険者にしてはガリって思われた。お前もお前で聖職者でその細身のアスリートみたいな体は反則だろ……)」

 

「その若さで勇者と言われるほどの剣の腕、余程の実力とこの先の成長性を見込まれての事でしょう。戦場でも発揮して期待に答えなければなりませんね。私は……恥ずかしながら回復しかできませんから正直羨ましいです。もし傷つくような事があれば私にお任せください」

 

私がそう彼に伝えると彼は急に笑ってそりゃありがとな、と答えた。そして真面目な顔になってからこう返した。

 

「でも俺の聞いた話じゃ呼び出された中に回復役なんていなかったけどな」

 

……?回復役がいないとは。そういえば私、呼び出された面子の名前と職業は知っているが詳細までは知らなかった。

 

「えっと……その、回復役がいないとは?てっきり私は回復魔法の腕を見込まれての事だと……」

 

「あー、たぶんアレだ。メンタルヘルス的なあれで呼び出されたんじゃね。一応聖職者だから戦えなくても、ほら、戦場でお祈りとか相談とかできるだろ?」

 

だとしたら色々が大掛かりすぎるような。態々資料を偽装して私の名字を偽装した意図が分からない。

 

「(……理論建てできない分からないことは考えても無駄ですね)きっとそうですね」

 

そういえば今まで何も考えずに歩いて森を出ようとしているが一体いつになれば出れるんだ?それどころか……町にはいつ着くんだろう。

 

「これ……あとどれくらいで町ですか。もう結構歩いたつもりですが」

 

「……あっ」

 

……あれ?

 

「えっと、私、元は国の馬車のつもりでいたので詳しい事は調べてないんです。ミツキさんは徒歩のようですが歩いて行くことのできる距離なんですよね?」

 

「……普通に行けば日は暮れる。一般人の歩行速度が平均時速4kmだから……あ、駄目だこれ、余裕で日が昇る」

 

私は計算してないから詳しい事は分からないが彼の漏らした言葉から推測するに私達は今、とんでもない状態にあるのでは?

 

暗い森の中で物資もなくこのザマ。決していいとは言えない状況……いや絶望的の方が適している。

 

「……もしかして、詰みました?」

 

「解決法ならある」

 

「あ、良かった。……良かったー…………」

 

危うく戦地ではなく情けない要因で死ぬ所だった。安堵のこもった声を出して心臓をの拍動を抑える。よかった……なんとか解決策はあるようだ。

 

「で、どのようにして町へ?」

 

「担いで走る」

 

「あの、もう一度お願いできますか?」

 

「担いで走る。俺は地元から走ってきてたし女一人分の重量なら多分走るのも許容範囲だ。特に細身なお前なら確実にでき……」

 

「そうゆう問題じゃないでしょ!!……あっそうゆう話では……」

 

「これしか方法が無い。馬車の残骸持ってきて引いて運ぶのは俺にはキツイから、諦めてくれ」

 

「えええ!?」

 

まさかの方法。知らない男に抱かれ……担がれて運ばれるのは教会での教え的には今回の場合ギリギリセーフかもしれないけど……なんか嫌だ。善意であってもなんか嫌だ!!

 

「(だけど解決策はこれしか無いんですよね)……分かりました。よろしくおねがいします」

 

「おし、分かった」

 

彼は私をヒョイッと肩に担いだ。男性に掴まれるのは……先刻の事があって抵抗はあったけど背中の広さに不思議と安心する。

 

「それじゃあ走るけど舌、噛むなよ」

 

「えっそれって……」

 

「ふっ!!」ダッ!!

 

 

瞬間、加速。風の切る音がする。

 

 

「ちょえぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「うるせぇ!!黙ってないとまじで舌噛むぞ!!」

 

「馬より早いって聞いてないですよ!?」

 

「言ってねえからな!!」

 

馬なんか目じゃない、雷鳴の如く走り出した彼に驚きつつ私達は街へと向かうのであった。




ー--




「………ふぁーぁ」

 

現在時刻 午後3:00くらい

 

「今日は聖女様が町に来るから護衛しっかりしろって言われたけど全く来ねえな。やっぱ今日もサボるか」

 

ドドド………

 

 

「……やっと件の馬車が来たな。聖女様を乗せるにしては随分と暴れちらしてんな」

 

ドドドドドド………

 

「んー……馬にしてはなんか小さい、て、あれ?馬じゃなくて騎手しかいな……」

 

 

ドドドドドドドド!!!

 

「ちょあれ人じゃねえか!?そこらの獣より速えしなんか担いでるぞ!!」

 

「衛兵さーん!!気をつけて下さーい!!」

 

「減速するぞ」

 

ズザァァァァァァァッ!!

 

砂埃をたたせながらミツキは速度を殺す。地面表層の土を剥ぎ取りながら十数メートル程ずって衛兵ギリギリのところで停止した。

 

「……ふう、どうにか着いたな、セレネ」

 

「ええ、一時はどうなる事かと思いましたがひとまずこれで安心ですね」

 

衛兵は突然の出来事に放心している。

 

「あのー衛兵さん?」

 

「ああ、すまない。急に聖女様が走って来たからこちらも驚いてしまって。あの特徴の無い男は?」

 

「ミツキ、勇者って言ったほうがいいか?」

 

「!?勇者様でしたか、これは失礼」

 

「「(あの反応ですと(だと)絶対分からなかったようですね(な))」」

 

ーーー

 

「ところでセレネは何で馬車が襲われてたんだ?」

 

町で馬車を乗り換えて暫くしてから彼が聞いてきた。あの事については森で大体話したと思っていたがまだなにか話すことがあったか?

 

「何でって、賊に襲われたからですよ。ミツキさんが撃退したあの方たちです」

 

「その前、護衛とかはどこ行った?」

 

「護衛は初めからついていませんでした。しかも自分で対処しろとも言われてます」

 

「(おいおい、こいつ対処できてなかったぞ。命令下した奴あの賊よりアホじゃねえか?)それで危険な目にあって……上が何考えてるのか分からないなら」

 

「ははは……ミツキさんはそうでも国にも考えがきっとあっての事ですよ、きっと」

 

だけど実際問題が起きてから考えてみると……やっぱり最終的には私自身が手を汚さなければならないのかも知れない。

 

「……やはり、私も戦うのでしょうか」

 

外の景色を眺める。今は平原の街道を走っていて、地平線に落ちる夕日が見える。

 

あの時私は彼らを脅すのに魔法を使うのが正しかったのか?聖職者としては人を傷つける行動は避けるべき。殺すのなんて言語道断だ。

 

だけと……やっぱり国は私が彼らを殺す事を想定していた事を認めざるを得ない。事実、あの場であの魔法を彼らに使っていなかったのならあんな事態にはならなかった筈だ。

 

人殺し、私には出来るの?

 

「たしかセレネは魔法が得意だったな」

 

「はい。回復が主ですけと」

 

「ちょっと魔導書見せてくれ。俺も少しなら魔法は使えるから何か分かるかもしれない」  

 

彼は冒険者だ。攻撃魔法については彼のほうが知っていそうだ。

 

「それなら魔導書じゃなくて……これを」

 

「これは……お前の手書き?」

 

「研究書です。稚拙な式ですが使いやすいように自分好みに改良したのでそちらのほうが参考にするのがいいです」

 

適当に攻撃魔法の研究データのあるページを彼に見せる。見た感じレーザーメスとか不可視光射出とか少し危ないから使いたくない魔法ばかりだった。

 

これらは私ですら本当の使用用途では人生で1、2回使ったか使わないかくらいの魔法だ。それだけならここに書く必要は無かったけど魔法の組み方の参考として書いたんだと思う。正直自分でもこんなきれいな式二度と書ける気がしない。

 

彼は私が書いた資料を見て少し何かを考えている。

 

「………へぇ、成程」

 

「何か分かりましたか?」

 

「いや、さっぱり」

 

「あ、そうでしたか。やっぱり自己流で圧縮してるから難化してました?」

 

「いや、そもそも俺魔法の式とか知らないし」

 

「ええ!?それじゃあ意味ないじゃないですか!!そもそもなんで見たの!?」

 

馬車内なのに思わず立ち上がって突っ込んでしまった。ギリギリ高さが天井に届かなくて頭がぶつかりそうになった、そしてすぐに謝ってから座る。

 

「よく考えたら俺の魔法ここまで体系化してやって無かったからこんな式見たの初めてだな」

 

ああ、もしかしてこの人感覚で魔法使ってる人か。自分で魔法の概念を発見して実用するに至る運と才能に恵まれた方も居るらしいからその類いだろう。

 

「もうっ!……結局分からずじまいですね」

 

「いや?一つ分かったことがある」

 

「でもさっき魔法は分からないって……」

 

「うん、魔法は分からないんだ。でも丁寧に説明書きがされてるから大体どんな時に使うかとかは内容はわかる。ほら、こことか」

 

彼は研究書の文章の一つを指差した。

 

「丁寧なんてそんな。まだまだ未熟ですよ」

 

「でもやってる事と要求される魔力の精度から察するに……セレネは相当魔法の才能あるぞ」

 

「いやいや……そんな……才能なんて」

 

「そうじゃなきゃ誰がこんなことやろうとするんだ?」

 

彼が指差した所は外科手術の為の魔法。たまに切開が必要な時に使っている。患部だけでなく色々なものを切るのにも便利だ。

 

患者の精神を保つのに大丈夫だと言い聞かせる事を心がけて、ついでにレーザーでの切除時に併用すべき薬品と補助的な魔法として……

 

「ストップ、そこ」

 

へ?

 

「普通の人は……少なくとも俺の知ってる奴らの中では複雑な回復魔法とバフを同時掛けしがら繊細なレーザー撃ってなおかつメンタルケアで勇気づけるなんて不可能だ」

 

「……そんなもんなんです?」

 

「それに、回復魔法自体魔力の消費が多めの部類に入るから高頻度で使えるとなると感知できないだけで魔力量も人の数倍はありそうだな」

 

それは知らなかっ……あ、魔法が使えるのは圧縮していたからそのせいもあるのだと思う。実際魔導書の魔法は普通に使うと機械的で楽だけど少し疲れる。それに比べて研究書の魔法は改造のかいあって発動が楽でいい。

 

そして彼は御者さんと話し始めた。何をするのかと話を盗み聞きする前に馬車が止まった。

 

「おい、降りるぞ」

 

「えっ?でも……」

 

今の場所は王都までの中継の町から離れた平原。とても降りる場所とは思えない。

 

「ちょちょ、ミツキさん。ここで止まって日没までに次の町に着くのですか?それに着くとしてもとしても何をするんですか?」

 

「セレネの魔法がどれくらい強いのか試して行かないか?ほら、この先王都に近づくと人も多いから道とか建物とか壊すと不味いだろ?」

 

「えぇ……そんなことの為に態々ここで?」

 

「実力を知るのはいい事だぞ」

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