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第15話 亀裂


 『さあこっちだよ!! 付いておいで蛇さん!!』


 正義(ジャスティス)が黒い大蛇と化したダークマターソード《《だったもの》》を挑発し、正義の盾を装備した女が大蛇をおびき寄せる様にひた走る。


『さてと、この辺でいいかな?』


 ある程度走ると女は足を止め振り向く。

 そこは周囲を岩の絶壁で囲われた袋小路の行き止まりだった。

 ある程度の広さがあり上方は露店で開けているものの追い詰められた格好だ。


 シャアアアアアアアアッ!!


 大蛇は女に追い付くと一定の距離を開けた場所でゆらゆらと左右に揺れながら鎌首を上げる。

 そして不気味に甲高い音を立てながら威嚇をしている。


『本物の蛇でもないのにそこまで行動を再現するとは魔王も凝り性だねぇ』


「………」


『本当に大丈夫なのかって? 任せてよ、僕を信じて』


 女に対して正義(ジャスティス)がそう言っている間に既に大蛇は動き出していた。

 女諸共正義(ジャスティス)に喰らいつく為に大口を開けながら飛び掛って来た。

 それはその巨体に似合わない俊敏なものだった。


『甘いね、そんな攻撃僕の盾の敵ではないよ!!』


 女が正義の盾を正面にかざす、すると大蛇の突撃は何も無い空間、盾の僅か手前で見えない何かにぶつかったかのように止められたしまった。


 ギシャアアアアアアッ!!


 ぶつかった反動で後ろに仰け反る大蛇。


『ヨシ!! 今だよ!!』


「………!!」


 聞き取れないが女が何か呪文のようなものを唱えた。

 すると盾はその円形の形状のまま暗黒の穴と化し辺りの物を物凄い勢いで吸い込み始めたではないか。

 岩場にあった小岩や生えていた草木など次々と縦の穴へと吸い込まれ消えていく。

 そして遂には大蛇前もその穴へと引き寄せている。


 シャアアアアアアアアッ!!


 大蛇も渾身の力でその吸引力に抗おうとするが確実にその巨体は盾の方へ引っ張られている。

 とうとう尾の先が盾の穴に入ってしまった。

 その途端、一気に大蛇の身体は穴に入り込み頭だけが外に出ている状態になった。


『無駄無駄!! もう逃げられないよ!!』


 ギシャアアアアアアッ……シャアアアアアッ……。


 最後まで引っかかっていた頭部が穴の内側に入ってしまい大蛇はその姿を完全に消してしまった。


『ふぅ……』


 ドクン……。


 女の身体と正義の盾が一瞬脈打つような感覚に襲われる。

 女は眩暈を起こし少しよろめいたが足を踏ん張り耐えるのだった。


『来た来た、コイツはかなりいい収穫になったよ』


「………」


『この感覚にはいつまで経っても慣れないって? まあそう言わないで、こうしないと僕らは強くなれないんだから』


 あの黒い大蛇をいとも容易く倒し、女と正義(ジャスティス)は何食わぬ顔でライアンたちの方へと歩いていく。


『おや、こちらも決着が着いた様だ』


 人間体のまま上半身と下半身が離れたギランデルの亡骸、傍らにはへたり座り込むライアンの姿があった。


『流石は四元徳の仲間たちだね、三人寄ればその程度の雑魚は容易いって訳だ』


「………!!」


 その言葉を聞いた途端、ライアンは突如として立ち上がり、女の胸倉にあるマフラーに掴み掛った。


「あなたね!! よくもあたしとギランデルの勝負に水を差してくれたわね!! コイツは確かに倒すべき敵ではあったけれど正々堂々とした勝負を挑んで来たって言うのに!!」


「………!!」


 ライアンの手に更に柄らが籠められ女は苦しそうなうめき声を上がる。


『ちょっとやめてくれないか!? 彼女に当たるのは!! 君が文句のあるのは僕の方だろ!?』


「あっ……」


 正義(ジャスティス)の言葉で慌てて女の胸倉から手を放す。


『……相変わらずの様だな、手段を選ばないそのやり方』


『やあ、ウィズダム久し振り、他のみんなも』


『……素直に再会を喜ぶ気にはなれませんね申し訳ありませんが』


『……んだぁ』


『どうしちゃったのさ三人とも? 随分と冷たいじゃないか』


 他の四元徳の三人の冷ややかな反応が理解できずにいる正義(ジャスティス)


「そのやり方が気に入らないと言っているのよ」


『やあ改めて初めましてライアン、僕は四元徳のジャスティス、もう他の三人から話は聞いているんだよね?』


「ええ聞いているわ、手段を選ばない下衆野郎ってね」


『酷いなぁ!! 君ら僕の事を彼女にそんな風に伝えていたのかい!?』


 甚だ心外といった様子の正義(ジャスティス)


『ねえねえ君たち、自分たちの存在意義を忘れてしまったのかい? この世界に仇成す存在を滅するのが僕らの仕事だ、今回に至っては魔王とその配下の四天王を倒す事だ、実際に僕らが協力してギランデルを倒したわけだし、その倒し方なんてどうだっていいんじゃないのかな?』


『確かにそうかもな、オレもお前のそう言う所を気に入っていた所もある、だがな、お前はやっちゃいけない事をした……オレのパートナーを危険に晒した事だ』


 いつになくシリアスな知恵(ウィズダム)

 いつもの半分ふざけた様子は微塵も感じられない。


『そうは言うけどさ、僕のパワーアップに暗黒瘴気や闇の力が必要なのは君らも知っているだろう? あのダークマターソードは固体に限りなく近い状態に暗黒瘴気が加工されてしまっていたからね、《《ほぐす》》作業が必要だったんだよ』


「……テンパランス、一体どういう事? 二人の言っている意味が分からないんだけれど?」


 ライアンはマントの裾を手に取り話しかけた。


『ライアン、ダークマターソードが大蛇になった時の事を覚えていますか?』


「えっと、確かあたしがギランデルの左脇腹を剣で斬ったらその傷口に剣から姿を変えた蛇が噛み付いた……筈よね?」


『そうその通り、付け加えるならば傷から引き出した血にダークマターソードが反応して蛇化したという事です』


「成程、それは分かったけれどジャスティスはどうしてダークマターソードを蛇に姿を変えさせなければならないのかしら?」


『問題はそこですよ、ジャスティスの能力に邪悪反転ウィックネスインバーションというものがあり、それは邪悪な力を取り込み反転させ聖なる力に変えて自らを高めるというものなんです』


「へぇ、それは凄いわね、その力があれば魔王も四天王も目じゃないわね」


『そうですね、ただ今回は暗黒瘴気が固形化したものが対象でしたから一度吸収しやすい瘴気に戻さねばならなかった、たまたまその役目をしたのが今回はギランデルの血でしたが……』


 ここで節制(テンパランス)が口籠る。


「どうしたの?」


『そこから先はオレが言ってやる……こいつはギランデルを焚きつけダークマターソードを持ち出させお前と決闘する様に仕向けた……要するにライアン、お前の血をもってダークマターソードを加工しようとしたって訳だ』


「えっ!?」


 信じられないと言った表情のライアン。


『だって仕方がないじゃないか、折角ダークマターソードの在処が分かってもギランデルの持ち物だったしこれじゃあ剣を瘴気に戻せない、なら答えは簡単、誰かと戦わせちゃおうって話さ』


「そう、そういう事だったの……」


 ライアンは俯きながら呟く。


『まあいいじゃないか終わった事だし、四元徳も全員揃ったし残りの四天王と魔王をちゃっちゃと倒しちゃおうよ』


「ご免だわ!! あなたとは組みたくない!!」


 カッと目を見開きライアンが言い放つ。


『えっ? いいのかな? 僕がいなけりゃ君たちは暗黒瘴気に守られている魔王に傷一つ付ける事は出来ないよ? それでもいいの?』


 きつい一言にも特に引け目を感じることも無く飄々と言って退ける正義(ジャスティス)


「それでもいいわ、何か別の方法を見つけ出すだけ、あなたの力は借りない!!」


『ふぅん、そうか、こちらとしては少しばかり楽が出来るから君らと組もうと思ってたけど別に僕一人でも構わないんだよね……そうか、そういう事なら……』


 正義(正義)がそう言うと縦の装着者である女が正義の盾をライアンに向けた。


「……吸収(アブソーブ)


 女が初めて聞こえる程の音量で言葉を発した。

 途端に正義の盾が先ほど同様暗黒の穴と化しライアンの吸引し始めた。


『邪悪な力の方が反転して大きな力になるんだけど聖なる力のままでも足しにはなるからね、頂くよその力!!』


 とうとう本性を現す正義(ジャスティス)


「この子、どこまで性根が腐ってるの!?」


『だから言ったろう!! 会ったら幻滅するって!!』


 ライアンは足で地面をしっかりと踏みしめ盾の吸引に抵抗する。


『ああ、一つ言い忘れてたけどこの僕の持ち主、四天王だから!!』


「はっ?」

『はっ?』


 正義(ジャスティス)の突然の告白に一瞬何を言っているのか分からなかったライアンたち。


『見せてやりな、その姿を!!』


「………」


 正義(ジャスティス)に従い女は羽織っていたローブを脱ぎ捨てる。

 そこに現れたのは紫色のビキニアーマーに身を包み角の生えた兜を被った長いブロンドヘアーの女性だった。


「そんな……まさか……」


 その素顔を晒した四天王の女性を見た途端、ライアンの顔色が変わる。


『どうしたライアン?』


「馬鹿な……有り得無い……」


 遂には全身が小刻みに震え顎もガチガチと鳴っている


『どうした!? 何かあったのか!?』


「ルシアン……あの四天王はルシアンだよ……」」


 四天王の女を指さすライアンの指はこれ以上ない程ガクガクと震えていた。


『何だって!?』


『そんな!? それじゃあ正体不明の最後の四天王って……』


『そうともご名答だよテンパランス!! 世界の北を支配する四天王、暗黒女帝ルシアンとはこの彼女の事さ!!』


「そんな……何て事なの……」


 恋焦がれ探し求めた最愛の(ひと)、ルシアンが四天王として自分の目の前に現れた。

 ライアンは目の前で起こっている事が夢であってくれと願うばかりであった。

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