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第10話 ビキニアーマーの起源


 「それって一体どういう事なんですか!? ガランドゥが本来の知恵(ウィズダム)の鎧だったはずだったって言うのは本当なんですか!?」


 いきなりにわかには信じられない話しを持ち出され困惑気味のライアン。


『そんだべ!! オラもそんな話聞いた事がねえべよ!!』


 勇気(カリッジ)も同様だ。


『事実ですよ、っていうかカリッジ、あなたは知っておくべきですけどね、まあ知恵(ウィズダム)の鎧が完成した時にはあなたは既にあの場には居なかったから仕方ないですけど』


『そうなのか?』


『いいでしょう、少し長くなるかもしれませんがその事に付いて私がお話ししましょう、それには私達生きている装備(リビングイクイップ)の起源から順を追って話さなければなりませんね……では』


 節制(テンパランス)は淡々と語り始めた。




 生きている装備(リビングイクイップ)は数千年前に時の賢人(さかびと)たちによって生み出された装備である。

 造られた目的は人間をはじめとした地上の種族が太刀打ち出来ないほど強大な悪意ある存在から世界を守るためである。

 装備自体に意思があるのはその装備を持つに値する存在を見極める為だ。

 しかしその生きている装備(リビングイクイップ)の製造法は非人道的であり、賢人(さかびと)たちの中でも製造するか否かで大きく意見が割れた。

 それは何故か? その製造方法とは神々の加護を付与した装備に同時に人間の魂をも宿らせるというものである。

 当然人間の魂は生きている人間から抜き出し、魂を抜き出されてしまった人間の肉体はそのまま死亡してしまうからだ。

 しかもその人間は誰でもいいという訳ではない、適性もそうだが何よりもその装備に相応しい能力、知力、人柄を保有していることが条件なのだ。

 勇気(カリッジ)正義(ジャスティス)節制(テンパランス)はすぐに適応者が決まり装備への魂の移植が行われたが、知恵(ウィズダム)だけは難航した。

 最終的に二人にまで候補が絞られたがより適性のあったのは現在幽霊騎士ガランドゥと呼ばれている青年と現在の知恵(ウィズダム)の青年だった。

 賢人(さかびと)の中でも意見が割れていた、普通に考えればガランドゥが選ばれるのが筋ではある、しかし彼の精神性には大きな欠陥があった。

 残虐性……彼には適正も知識もあった、だがただ一つその残虐性によりガランドゥは候補から除外、知恵(ウィズダム)は現在の魂で完成を見た。

 しかし納得がいかないガランドゥは「何かの間違いだ!! 俺の魂を選ばなかった事を後悔させてやる!!」と言い残し失踪した。



『……と、こういう経緯があるんですよ』


「何よそれ!? ただの逆恨みじゃないの!?」


『んだ、そんな奴ぁ女勇者の鎧たり得ねぇ!! 外されて正解だべ!!』


 節制(テンパランス)の話しを聞き終え、ライアンと勇気(カリッジ)は大いに憤慨した。


「あんたもそんな奴の恫喝に脅えてるんじゃないわよ!! シャキッとしなさい!!」


『ううっ……』


 ライアンが発破をかけても相変わらず知恵(ウィズダム)は意気消沈したままだ。


『今の話しはかなり端折りましたが知恵(ウィズダム)とガランドゥには生前に色々とあったんですよ、あまり責めないでやって下さい』


「ふぅん、節制(テンパランス)って優しいじゃない、依然に知恵(ウィズダム)から聞いてたあなたのイメージって生真面目で神経質って話だったんだけど……」


『彼は私をそんな風に言っていたんですか? 心外ですね、あ、生真面目なのは当たっていますけど』


『自分で言うだか? それを』


 勇気(カリッジ)は呆れている。


『まあ取り合えず今の状況でガランドゥを何とかしないといけません、参謀、軍師の立場である知恵(ウィズダム)が役に立たないので私がいくつか立案させてもらおうと思うのですが宜しいでしょうか?』


「うん、任せるよ」


『んだな、オラたちに作戦を考えろって言われても碌な案が出ねぇからな』


「はい、私も異論はありません」


 ライアン、勇気(カリッジ)、サンファンの同意を取り付ける。


『では僭越ながら……まずはライアンさんの事です』


「あたし?」


『そうです、今の知恵(ウィズダム)の状態ではその鎧の能力の十分の一も発揮されない事でしょう、そこで……』


 サンファンの背中にマントとして張り付いていた節制(テンパランス)はスルスルとそこから離れライアンの身体に巻き付く。


「えっ!? 何をしているの!?」


『おっと失礼、私があなたに巻き付き一時的にあなたのサポートに回ろうと思いまして』


 節制(テンパランス)の布はライアンの胴体部分に巻き付くと、徐々に姿を変えていく。

 そして暫くするとどこか神々しい感じのする純白の法衣へと姿を変えていた。


「こっ、これは?」


『『聖女の衣』、とでも名付けましょうか、この私生きている布(リビングクロス)の能力の一つに敵からの付加される能力の無効化と言うのがありまして、私を身に纏っている限り毒や麻痺、弱体化などの状態異常には掛からないという寸法です』


「へぇ、凄いじゃない!!」


知恵(ウィズダム)の能力の弱点をカバーしてるだな?』


『その通り!! 今回の戦いにはうってつけでしょう!?』


 ふふん、と鼻を鳴らす節制(テンパランス)


『んだどもライアンにこれ以上の生きている装備(リビングイクイップ)を装備させて大丈夫だべか? これで三つ目だで』


『問題ないでしょう、今は知恵(ウィズダム)の力が低下していてそちらにライアンさんの力を使っていない状態です、私とあなたの二つを装備しているのと変わらない筈です』


『そんなもんだべか?』


『ただ覚えておいて欲しいのは私の能力の糧はサンファンの魔法力です、それが尽きてしまうと私はただの布の服になってしまうので注意してくださいね』


「分かったわ!! 宜しくねサンファン、さん!!」


「微力ですがお手伝いさせて頂きます」


 ライアンとサンファンが手を取り合う。


「あれ……?」


 だがその時サンファンが訝しげな顔をした。


「どうしたのサンファンさん?」


「いえ、何でもないんですよ、失礼しました」


「そう? ならいいんだけど」


(今感じたのは何だったのだろう? ライアンさんと私は初めて会うはずなのに手から伝わってきた魂の波形は以前にも感じたことがある物でした、もしかしてライアンさんは……)


 僧侶であるサンファンは相手に触れることでその人間の魂のあり様がかなり正確に分かるのであった。

 その人間が嘘を吐いているか、悪意は無いかなども判別できる。

 しかし違和感こそあれライアンからは邪悪な気配は一切しなかった。

 胸に僅かな引っ掛かりはあるもののそれ以上この事に気を病むのをサンファンは止めることにした。




「さ~~~てと、リベンジマッチと行きますか!!」


 扉から外に出て両腕を思いきり伸ばしライアンは大きな伸びをした。

 外に出た初めて分かったが、ライアンたちが入っていた建物は崩れかけの教会の建物であった。

 しかもこの場所はマルロゥ村からはかなり外れた所にあった。

 斜めに傾く十字架が少し物悲しい。

 

「ここも魔王軍に襲撃されたのでしょう、弱き者が助けを求め駆け込む教会が狙われるなど有ってはならない事です」


「うん、さっさとガランドゥを倒してこの村を奪還しよう!!」


『んだな、オラも頑張んべ』


 準備が整い一同はマルロゥ村を目指して歩きはじめた。


「でもさ、このまま正面から乗り込んでいいものなのかな?」


『オラたちはもう素性がバレてるべ、今更コソコソしてどうする』


『問題があるとすれば収容されている女性たちを人質にとる事も考えられますが可能性はかなり低いと思います』


「何で節制(テンパランス)はそう思うの?」


『考えてもみて下さい、女勇者を登場させないために集めた女性たちですよ? それがもうその心配をしなくていい、何せ本物の女勇者であるあなたが現れた訳ですから』


「確かにそうね」


『むしろ心配すべきは女性たちを命の方でしょうか』


「えっ!? どうしてそうなるの!?」


 節制(テンパランス)の余りのも物騒な物言いに驚きを隠せないライアン。


『今申した通りですよ、女勇者が見つかったからには女性たちはもう用済みな訳です、監禁の手間、食事などの面倒な支度や調達をしなくて済むように殺してしまうのが一番合理的でしょう?』


「何淡々と語ってんのよ!! 急がなきゃ!!」


 ライアンは一人走り出し先行する。


「あっ、ちょっと待ってくださいよ!!」


 取り残されるのはサンファンだけであった。




「見えて来たわ!!」


 そう時間が掛からずにマルロゥ村の前までやって来たライアン。

 

「さて、どう村に入ろうかしら?」


『その心配はない』


「えっ!?」


 声は後ろからする、慌ててライアンが振り向くとそこにはランスを地面に突き刺しその持ち手の上で腕を組んでいるガランドゥが立っていた。


『ほう、まだ生きていたとはな、いや状態異常を治してきたのか? 優秀な仲間がいるのだな』


「また……気配がしなかった」


『肉体が無いのですからそうでしょうね、呼吸も心臓の音も血液の流れる音も聞こえないのですから。』


「そういう事……所詮は鎧なのね」


『女ぁ!! 俺を侮辱するか!!』


 物呼ばわりされて怒り心頭のガランドゥ。

 地面からランスを抜き取り臨戦態勢に入る。


『案外ちょろいんだなぁおめぇ、こんな簡単な挑発に乗るなんざ、まあ中身が空っぽだからしかたねぇか』


『剣の分際で言わせておけば!! 貴様らとて俺と同じではないか!!』


 激昂して勢いで襲い掛かって来るガランドゥ。

 放ったランスの突きがライアンの左肩に掠る。


『どうだ!! 何ぃ!?』


 確かにランスの先端が掠ったはずだがライアンの肩にはかすり傷すらついておらず、前回の戦闘の様に暗黒瘴気も纏わす事が出来なかった。


『ふっふっふっ、そんな攻撃、私の聖女の衣の加護には意味をなしませんよ~~~』


『貴様ーーー!!』


 既に冷静さを欠きつつあったガランドゥは節制(テンパランス)挑発(おちょくり)により完全に怒りが頂点に達成ていた。


(『いいですよ、この調子で……』)


 口八丁の挑発でガランドゥの自尊心を刺激して正気を失わせる、これは節制(テンパランス)が提案した作戦であった。

 案の定ガランドゥは怒りに我を忘れ攻撃が雑になっていた。

 実際ガランドゥの攻撃は一度たりともライアンに中っていない。

 前回闘った時の様な正確で力強い攻撃は影を潜めている。

 鍔迫り合いの末、ライアンは岩場を背に追い詰められる恰好になった。


『ハハッ、どうだ、結局の所追い詰められたのはお前らではないか!!』


 してやったりと声を荒げるガランドゥ。


『これで止めだ!! 死ねぇ!!』


 ランスを前方に繰り出しライアンを突き刺す……筈であったがライアンが身体を翻したせいでランスは正面の岩盤に深々と突き刺さってしまった。


『ぬうっ!! 抜けない!?』


「今だぁ!!」


 ライアンは勇気の剣を抜剣、剣をガランドゥの右手の指目がけて叩きつける。


『がぁっ!!』


 ガントレットの指がばらばらと飛び散っていく、これではもう物を掴むことが出来ない。

 先ほどの戦いでは中身が無い為に剣で突き刺してもダメージを与えられなかったがこうしてパーツを破壊して戦闘力を奪う作戦は功を奏した。


『なんの左手がまだある!!』


「そんなの丸っとお見通しなのよ!!」


 岩に突き刺さったランスに手を伸ばすガランドゥの左手も剣で叩き折る。


『うがぁ……!!』


 よろめくガランドゥ。


「上手くいってるね」


『駄目です、一見い上手くいってるようですが奴はまったくのノーダメージです、見てください』


『……ヌゥウン!!』


 切り落とされて欠落した鎧の部分に暗黒瘴気が集まり手や指の形になっていく。


「ああっ、またぁ!? 豚さんの時もそうだったけどズルくない!?」


『どうすんだべこれ……』


 一見優位に立ち回っているように見えたライアンたちだったが、現時点では全く

勝機は見えないのだった。

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