表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Unmatching!!  作者: joi
31/31

第30話

 大広場に連なる屋台は、全て閉まっていた。完売している店はとっくに閉まっていたし、閉門間近で閉めた店も複数見受けられた。要するに、全然間に合わなかった。


 「あれ、クス。どうしたのだ」


 呼ばれた方を振り返ると、三四朗さんと小森江が一緒にいた。改めて見てみると凹凸なコンビだが、雰囲気は悪くなさそうだった。


 「軽く何か食べようと思ったら、お店閉まってて」


 「それなら、こいつを渡そう」


 三四朗さんがアメリカンドックの入った紙袋を2つ渡してくれる。


 「え、良いんですか三四朗さん」


 「僕らはいろいろと食べ回ったのでな。これも食えるかもしれないと思って買っただけなのだ」


 大方、会話が続かなくて口を塞ぐ手立てに食べ物を使ったのだろう。でも、良いと言われたので甘えておく。


 「ありがとうございます。……進捗はどうです?」


 僕が三四朗さんに近づき、小声で尋ねると彼は顔を少し赤くさせた。


 「……悪くはないだろう。だが油断はしない。お主も最後、ゆっくり楽しむと良い」


 互いに顔を見合わせ、頷き合う。


 別れ際、小森江がちはるを見て首を傾げた。


 「ちはる、なんか良いことでもあった?」


 「え?どうして?」


 「顔色良さそうだから」


 ちはるは自分の頬に手を当てると、「そうかもね」と微笑んだ。


 僕らは自販機で温かいココアを買って、早々に建物の中に避難した。4号館の古びた廊下を進み、左奥から2番目の部屋を開ける。


 こびりついた薬品臭を嗅いだちはるが「え、臭いんだけど」と鼻を摘まむ。それを聞いた部屋の主が「失礼ダナ」と応対した。


 シシブさんは僕とちはるを見やると、髪をわしゃわしゃさせる。


 「ここは休憩所じゃないんダガ?」


 「すみません。外は寒くて。他の部屋も鍵かかってるからここしかなかったんです」


 僕はポケットから緊急用の食券を4枚取り出し、シシブさんに差し出す。彼は少しの逡巡の後、食券を受け取って「1枚につき15分だからナ」と言い残して外に出て行った。


 ちはるはシシブさんの消えた廊下を見つめている。


 「何、あの人。本当に大学生?」


 「分からない。でも、13代目のシシブさん」


 暖房の効いた牢屋みたいな部屋で、ちはるとアメリカンドックを食べる。今週は本当にいろいろ動いた。そういえば、大学だより『ちくわぶ』に掲載した本城先輩の4コマ漫画が反響を呼んでいるという話をちらっと聞いた。詳細を知って、先輩に伝えようか。


 ちはるはココアを一口含むと、ポツリと言った。


 「今日はありがとう。私のつまらないプライドのために、いろいろとしてくれて」


 「海老津、後悔してくれたかな」


 「あの感じだと、だいぶ反省したんじゃないかしら。2曲目の歌詞、公開処刑じゃない。あれじゃ、誰のことを言ってるか丸わかりよ」


 「……え、ホント?」


 だとしたら、海老津には本当に悪いことをした。僕の顔がよっぽどおかしかったのか、ちはるが面白そうに口元を緩めた。


 「本当のことを話す?」


 「いやー……ボコボコにされそうだから止めておく」


 「あんた、やっぱりクズよね」


 「きみだって、良い性格してるとは言えないだろう」


 お互い睨み合って、同じタイミングで噴き出してしまう。お互いの目的はエゴでしかなくて、打算的な関係で、終わってしまえば簡単に切り離せる。でも、そんなラフさ故に本音がぶつけられる。


 僕らは似た者同士というより、共犯者だった。


 でも、僕は今回の一件で何となく考えてしまった。


 「……結局、過去は変わらないんだよな」


 僕の呟きに、ちはるは首を小さく傾げた。僕は先を続ける。


 「同窓会で僕に彼女がいることを話したところで、『ふーん』程度にしかならないのかなって。過去は過去。今は今。今この瞬間だからこそ、僕は彼女と呼べる相手に出会えたんだ。だから、わざわざ公言する意味はないのかもしれない」


 「前に山手って人に相当煽られてたけど。良いの?」


 「オタクでも恋人を作ることができる……それを突きつけてやろうと思ってた。でも、所詮エゴなんだ。僕が生きやすい環境に整えるんじゃない。僕がありのままの僕を発信して、生きやすい環境を作れば良い。たったそれだけなんだって、今は思える」


 ちはるは黙って僕を見ていた。やがて、ソファに寄り掛かると大きく溜め息を吐いた。


 「何よそれ。私の一件で悟っちゃったわけ?結局、馬鹿なことをしたのは私だけになるじゃない」


 「なら、きみよりももっと馬鹿なことをしよう」


 「え?」


 僕はアメリカンドックをテーブルに置いて立ち上がり、ちはるの前で片膝をついた。固まった彼女の顔を覗き込む。


 「きみの容姿が最初から好きだった。でも蓋を開けてみたら性格は悪いし、口も悪い。食の好みも合わない。だからこそ、ちゃんとつき合いたい。きみのことをもっと知りたい」


 ちはるの視線が僕に刺さったまま動かなくなる。やがて「本当に馬鹿」と小さく呟き、両腕で僕の顔を抱き寄せた。


 「私が聞いた告白の中で、一番腹立たしい台詞よ。でも……悪くないわ」


 僕らはまだまだアンマッチだ。でも、その距離感を近づける努力は、惜しむつもりはなかった。


                                             終

『Unmatching!!』を最後までご覧下さり、ありがとうございました。

5月で完結する予定でしたが、執筆する時間が全く取れず、6月まで伸びてしまいました。

ただ、書き始めた物語を未完のままにすると次の作品が書けない性分でして、

どんな形であっても絶対完結させるという気持ちは常にありました。

また、次の作品でお会いできれば幸いです。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ