第21話
ショッピングモール東館のスタバは、昼頃というのもあって比較的空いていた。僕は店員に「4人で」と告げて、先陣を切って通路を進む。
店内奥にある壁際の4人席を確保した。僕の隣に小森江がきて、正面にちはるとクーコさんが座る。僕は3人に包囲される位置だ。
メニュー表をテーブルの真ん中に置こうとすると、小森江が「みんなコーヒーで良い?」と僕らを見渡す。僕含め、3人が頷くと彼女は近くにいた店員に声をかけた。
さて、と小森江が僕の肩をトントンと叩く。
「クスさん、私が当事者じゃなくて最も話を聞き出しやすいポジションだと思うからいろいろ聞くね」
「完全に尋問じゃないか……」
「そりゃそうじゃん。私からすれば、親友の彼氏が別の女の人と遊んでる場面に遭遇しちゃったって感じなんだよ?ただの女友達なんだなーって納得して、何も聞かずに帰られると思う?」
そう言われると反論のしようがない。でも、まさか小森江がちはるの友達だったとは。
ということは、ちはるに海老津を後悔させる術としてマッチングアプリを教えたのはこいつか。
ちはるは僕と全く目を合わさず、ずっとテーブルを見つめている。クーコさんも黙って僕らの様子を見守るだけだった。彼女は映画館を出てからほとんど口を開いていない。
ホットコーヒーが運ばれてくる。僕とちはるがブラックのままで、クーコさんと小森江はミルクと砂糖を入れていた。
小森江はコーヒーを一口啜ってから「ちなみに」と口を開く。
「私は本来ここにいなくて良い人間だから、意見はしないよ。クスさんの話もちゃんと聞く。でも、この人が女友達じゃなくて、デートのつもりで映画を観にきていたなら、話は変わってくるよ」
そのまさかなんだよなあ。でも、小森江に白状するということは、今までの出来事を要約しながらも全部話さなくてはいけなくなる。
つまり小森江を通じて大学内の知り合いにも流布するということで、僕の大学生活が崩壊しかねない。
どうすれば修羅場を切り抜けられる?僕が何も言えないでいると、ちはるが小森江を見据えた。
「雫。楠橋さんとは確かにつき合ってる」
あ、全部話すつもりなのか。咄嗟に「僕から説明を」とちはるに声をかけるが、彼女のキンキンに冷えた視線に負ける。彼女は滔々と説明を始めた。
「雫が私にマッチングアプリを勧めてくれたでしょ。楠橋さんとはマッチングアプリで知り合ったんだけど、まずは私の目的に協力してくれるって申し出てくれたのよ」
小森江の訝しげな視線が僕とちはるを行き交う。
「確かに、ちはるが元カレにフラれたとき、『そいつを後悔させられるくらい素敵な男見つけたれ!』みたいなことは言ったけど……それがクスさん?……素敵とは?」
軽くディスられている気がするが、今は黙っておく。それに小森江の話しぶりだと、千春の元カレが海老津であることまで知らされていないようだ。
ちはるは小森江の疑問にしっかりと頷き返す。
「楠橋さんは本当に素敵な人。でも私たちはまだ知り合って間もないし、お互いのことを知らない。だから私が用件を済ませるまでは、仲良くなることを大前提にしたの」
「じゃあ、クスさんが別の女の人と遊んでることに対して何とも思わないの?」
「うん。つき合ってるけど、まだ好き合ってないから」
小森江が大きなため息を吐きながら頭を抱える。ものすごく何か言いたそうな顔をしている。友達のカミングアウトに間違いなく堪えていた。やがて、彼女は僕に胡乱な目を向けてくる。
「で?クスさんはどうなんですか。ちはるとつき合ってるけど、まだ好きかどうか分からなくて、別の女の人ともデートしてる。互いにそれは了解済み。それでオッケーですか?」
「それは……」
僕はちはるの顔を見た。彼女は僕に何かを訴えるように目を細めている。その意図を受け取り、小森江に伝えた。
「ちはるさんの説明で合ってる」
小森江は明らかに納得していなかった。でも、自分を第三者と認めている以上、細かいことを今話すべきではないと我慢している。彼女はお手上げとばかりにコーヒーを啜った。
「へえ……。ていうかクスさん、やっぱりマッチングアプリやってたんじゃないですかー。別に隠さなくても良いのに」
「お金払って血眼になりながら彼女探してるって話したら、きみみたいなタイプは引くだろうなと思って」
でも、ちはるにマッチングアプリを勧めたのが小森江なら、引かれることはなかっただろう。小森江も「ないない」と笑いながら首を振った。
僕は、終始黙っていたクーコさんに頭を下げる。
「クーコさん、ちゃんと説明してなくてごめんなさい」
すると、クーコさんは「分かりました」と笑顔で答え——自分の髪の毛を引っ張った。
「え、ちょっと待って」
僕は反射的に立ち上がり、クーコさんの頭から目を離せなくなる。
クーコさんはカツラをしていた。本当の髪が露わになり、息を呑む。
後頭部の一部が紫色になっていた。メディアでよく見る際は、あの部分をポニーテールにしている。
アイドルユニット『DACCHA』に属する『永遠のサブリーダー』は、僕らを見渡して言い放った。
「やっと茶番終わったし。昼ドラかって感じだし。ていうか完全に興覚めだし」
クーコ——黒崎理子は、角砂糖をシュガートングで掴み、コーヒーにホイホイと入れていった。




