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Unmatching!!  作者: joi
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第10話

 地獄のデートから3日が経った夜、僕は海老津と三四朗さんに大学近辺にある海鮮居酒屋へ連れてきてもらった。彼女ができたという報告をしたら、海老津が面白半分に「打ち上げしようや!」と言い出したのだ。


 海老津はスマホを見て、「小森江ちゃんも今部活終わったってよ。先食べててだって」とメッセージを打ち込み始める。近くを通りかかった店員に「生2つとコークハイ1つ」と先に頼んでおき、三四朗さんに料理メニューを見せた。


 「三四朗さんがお店選んでくれたのもあるんで、オススメいろいろ教えて下さい」


 今日もばっちり童顔の『癒し力340%』は目を輝かせてメニューを眺める。


 「そうだなぁ……。とりあえずフライドポテトと焼うどんとタコのから揚げと、手羽ギョーザ辺りで攻めようか」


 「手羽ギョーザって何ですか?」


 「お主知らんのか?手羽先のギョーザに決まっておるだろうに!」


 そのまんまの説明ありがとうございます。僕は実物を待つことにした。スマホをテーブルに置いた海老津が「三四朗ちゃーん、山芋鉄板外したらいかんよー」と言ってから店員に声をかけ、スラスラと注文していく。


 正直、海老津が三四朗さんのことを知っているとは思わなかった。いったいどこで知り合ったのかと聞くと、去年の文化祭で海老津がミスコンに参加して2位になったときらしい。注文を終えた海老津が三四朗さんの頭に手のひらをポンと乗せる。


 「三四朗ちゃんめっちゃ可愛いよ?ミスコン終わった後、直接俺のところにきてさ。『男っぽくなるにはどうすれば良いのか』って聞いてきたんだ。で、俺がいろいろ教えてやったってわけ」


 「此奴は良い奴ぞ!ぼくはこの通り、見た目が男っぽくないのでな。いろいろなものを取り入れて、ぼくに見合った男らしさを作り出したいのだよ」


 「この間はパワーハンドグリップを薦めたんだぜ!確か1キロの抵抗力のやつ、俺がプレゼントしたんだ」


 「その節は大変世話になったな、海老津!おかげで今は3キロに上方修正しているところだ」


 三四朗さんはその容姿から、構内でもそこそこの有名人だ。だから彼の『男っぽくなりたい』から端を発した奇行は周囲によく知られている。僕は、三四朗さんの顎を擦った。


 「三四朗さん、どうしてチョビ髭つけてるの?」


 「やっぱり男は髭なのだと海老津に教わってな。此奴に頼んでチョビ髭を準備させたのだよ。どうだ、似合うだろう?」


 「……あー、なるほど。確かにギャップが良い感じですよ」


 海老津に視線を送ると、奴は胸を張ってドヤ顔を決めてきた。こいつはこいつで三四朗さんのオーダーを真面目に受け止めて、毎回違った提案をしている。ある意味、質が悪い。


 「三四朗さん、今まで海老津からどんなアドバイス貰ったんでしたっけ」


 「いろいろあるぞ。ダメージジーンズにダメージを入れてみたり、芋焼酎のお湯割りに挑戦してみたり、9ミリのタバコを吸わせてもらったり……。なかなか続かないのはぼくの責任だが、いろいろ教えてくれて助かっているものだ」


 三四朗さん、従順すぎる。悪い大人に捕まらないか、わりと不安に思う。


 僕は海老津に問いかけた。


 「長続きしてる助言はあるの?」


 「ある!三四朗さん、紅茶飲めるようになったんだよ。大きな前進だろ?」


 「コーヒーも飲んでなかったっけ」


 すると三四朗さんが「ミルクで薄めれば余裕のよっちゃんさ」と鼻を鳴らす。恐らく、薄めるというより混ぜ込むイメージに近いだろう。配分はコーヒーと牛乳で3対7くらいか。


 店員が先にお通しと飲み物を運んでくる。全員でジョッキを持つと、海老津が「祝杯!」と音頭を取ってくれた。


 続いて三四朗さんと海老津が頼んだ品が少しずつ運ばれてきて、僕らは話もそこそこに酒と料理を回し始める。海老津がタコのから揚げを噛み砕きながら僕に聞いてきた。


 「クスの彼女って他大なんだろ?来月の文化祭はくる?くるよな?」


 「あー、まだ聞いてなかったな。でも向こうの大学も同じタイミングで文化祭だから正直分からん」


 「いや絶対誘えよお前。この打ち上げを開いた手前、エア彼女でしたなんて許されないからな。その子のツテで別の女の子も誘ってもらえよ。そこまで準備できて初めて文化祭は成立するんだよ!」


 「マッチングアプリで女の子探してるのに、まだ足りないの?」


 「ケースバイケースって言うやん?せっかくチャンスの種が目の前にあるのに、使わなきゃ損ってわけよ!三四朗ちゃん、このくらいガツガツいった方が男っぽいんだぜ……」


 三四朗さんは若干据わった目で海老津を見上げて「さすがミスコン2位、ぼくの見立ては間違っていなかったようだ」と頷く。よりにもよってアドバイザーが海老津か、というのが周囲の見解であることを当人たちは全く知らない。


 海老津がスマホに入れたマッチングアプリ『KuruMira』を開いて、ユーザーのプロフィールを見せてくる。それは僕の暫定彼女だった。


 「ちはるちゃんって子、元カノに似てるんだけどめっちゃ可愛いんだよなあ。写真の加工外してくれないかなー」


 「メッセージは送ってないの?」


 「今はまだ!何人かいけそうな子いるし。ていうか、なるべく俺からいきたくないってのもあるわけよ。足跡はつけてるから、もうちょい情報戦って感じ?」


 彼女も僕以外の男を探していないわけじゃない。だから海老津が彼女の中で急浮上する可能性は大いにあり得る。僕がそのときにフェードアウトできていれば問題はないか。


 入店音が聞こえて視線を移すと、店員の後ろにジャージ姿に革ジャンを羽織った小森江が見えた。僕が手を挙げて呼びかけると、彼女は客の合間をするすると抜けてきた。


 「お疲れ様でーす。海老津さん、メッセージでスタンプ乱用するの止めてくれる?普通にウザい」


 「新しいやつは使ってみたいって思うじゃーん」


 「猫とカピバラを足して2で割ったようなキャラクター、ぶっちゃけキモいんですけど」


 「ひっど!俺の友達のオリジナルキャラクターなんですけど!」


 三四朗さんが口をパクパクさせて何か言いたそうにしていた。僕が「どうしたんですか?」と聞いてみると、彼はなぜか緊張で上ずった声を発した。


 「こ、小森江さんは飲み物、どうするんだい?」


 「あ、私さっき入店するとき頼みました。お気遣いどうもでーす」


 「そうか。ああ、それもそうか。うん」


 三四朗さんははにかみながら柔らかな髪質のボブカットを手で整える。何だこの人、急に可愛いな。恋する乙女か。


 小森江の生ビールが届いたので再び乾杯する。彼女が僕を興味深そうに眺め始めた。


 「クスさん、やっぱりマッチングアプリやってたんじゃないんのー?最近そういう話したばっかだよね」


 「過程は何だって良いじゃんか。小森江はやらないの?マッチングアプリ」


 「私?いやいや、今はないよ。恋愛は」


 小森江がケラケラ笑いながら手を左右に振ってみせる。すると三四朗さんが身体を前のめりにした。


 「小森江さんはしっかりしているしスタイルも良いし、きっとモテるに違いない!せっかく大学生になったのもあるし、少しくらいは良いのではないか?」


 「三四朗さんべた褒めじゃん、嬉しいー。でも今は陸上優先ですかね。友達がマッチングアプリやってて最近彼氏できたらしいんですよ。人の話聞いてる分には楽しいけど、いざ自分ってなるとねぇ」


 「そうか……」


 なぜか三四朗さんのテンションがガタ落ちする。何だろう、この違和感。恋する乙女と体育会系サバサバ男子の構図だが、ポジションが逆すぎる。というか、恋する乙女役の三四朗さんは役に入り過ぎだ。


 海老津が三四朗さんと小森江を交互に指差しながら会話を繋ぐ。


 「え、そもそも2人って知り合いだったん?」


 三四朗さんが小森江さんをチラチラと見ながらはにかんだ。


 「小森江さんには去年の文化祭で助けられたことがあってな……。ぼくが知らない女子にメイド服を強要されそうになったところを、彼女が助けてくれたのだ。彼女の対応は勇ましく、男も驚く捌きっぷりだった。お見事としか言えなかったよ」


 海老津が「小森江ちゃん、去年って高3じゃね?」と呟いた。小森江がすかさずその疑問を拾う。


 「スポーツ推薦でブチューに入るのが決まってたから、去年の秋から練習に参加してたの。で、たまたま大学で文化祭やってて軽食買いに行ったら三四朗さんがトラブってただけ」


 三四朗さんの筒抜けなアプローチに、当の小森江は全く気づいていない。生ビールをグビッと飲んでからヘラヘラ笑ってみせる。


 「三四朗さんの代わりに、私が別の衣装で男装したらあの子たち喜んでましたし、ウィンウィンです。私、男装趣味なんで」


 「それでもぼくは助けられたし嬉しかったのだ。お主の傍にいられたら、ぼくも勇ましさを身につけられるかもしれない」


 「三四朗さんは三四朗さんでオッケーですよ。まあ、何か困ったら言って下さい。助けに行くんで」


 「頼もしいな、お主は……」


 三四朗さんの目がとろんとしているのは、アルコールのせいか片想い相手のせいか。僕は近くにいた店員に「お冷下さい」と告げた。


*****


 後日、僕は阪多駅前の新幹線改札口前で立っていた。スマホのトーク画面を見ながら、小さく溜め息を漏らす。


 視線を上げると、在来線改札口に知っている顔が見えた。暫定彼女——門松ちはるも僕を視認したようで、口を尖らせながら近づいてくる。肩までかかった茶髪を一本結びにしているから、顔の小ささが否応なく目立っていた。僕は彼女の方へ歩くことなく、その場で待つ。


 正面まで辿り着いたちはるは、親指を立てて行先を示した。


 「北口のスタバ、早く行くよ」


 僕はちはるに手のひらを差し出す。彼女は僕の顔をじっと見つめた後、手のひらではなく手首をぎゅっと握った。


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