9話 護衛の交替?
護衛が豪華やねーん!
さて、シンシア王女の御前から転移魔法でジャンプすると皇城の地下の転移門迄やって来たメルヘン。
起動が終了したばかりの魔方陣の中央に立っている人物達を見て黙り込んだ。
「メルちゃんどうしたの? なんで黙るのよ?」
「まあ、わからんでもない・・・」
そこに立っていたのは紛れもなくこの世界に唯一の大聖女、ハイドランジアの妖精姫ミリアンヌと聖王の1人ミゲルである。
「兎に角、王女陛下の元にお連れいたします」
小さくため息を付くと、2人の足元に転移魔法の金の光が展開しそこには誰もいなくなった。
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「あら、ミゲル? ミリアちゃんもどうしたの? 何か御用かしら? ワタクシは会えて嬉しいけれど」
紅茶の入ったカップを優雅な所作で音もさせずにソーサーに戻すと、部屋の隅に待機している侍女に合図を送り、2人のためのカップを用意させるシンシア王女。
「ミリーがお前を心配してどうしてもトリステスに行くって言い張ってな。仕方ないんで付いてきた」
渋面でそう言うミゲル。
「だって、シンシア様は国外に行ったことがないって王妃様が・・・ この国に転移門が有るからって教えたのが自分だから責任があるって思っちゃいまして」
ミゲルの渋面には全く気が付かない天然ミリア・・・
✣
ペコペコと頭を下げる世界に唯一人の大聖女に目を剥く侍女に気が付き、『コホン』と咳払いをするシンシア王女。
「ミリアンヌ様?」
「あ、はい」
「ご自身のお立場は大聖女ということを忘れてらっしゃいません?」
ん? と小首を傾げるミリア。
「立場としてはワタクシのほうが格下で御座いますから、其のように頭を下げられても困りますのよ?」
こちらも困り顔で小首を傾げるシンシア王女に、んんん? という顔で更に首を傾げるミリア。
「「・・・」」
ミゲルとメルが困り顔で黙り、2人のやり取りを見ていたのは言うまでもない。
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「え!『キュウコン』てええと?『求婚』えーとつまりは婚姻の申込みってことですか?!」
思わず飲みかけの紅茶を吹きそうになり、慌てて飲み込み咽るミゲルを他所に、
「そうなの。どうしましょう? 婚姻の事などとうに忘れていましたわ。今が忙しすぎて・・・・」
「忘れるって、お前な・・・ ミリーのデビュタントの折に大騒ぎに発展した事件を忘れたのかよ?」
口元をハンカチで拭いながら額に青筋が立っているミゲル。
「だって、あの辺りの事は本当に記憶が朧気なのよ」
「まあ、クスリにヤられて正気じゃなかったらしいからなあ・・・」
✣
「何であんなに婚姻に拘ったのか未だにわからないんですもの。ワタクシ元々そういうの不得意だったじゃない?」
「そうだなあ・・・」
天井を見上げながら腕組みをするミゲルとほぼ同じことをしているシンシア王女を交互に見ては『やっぱり似てるー!』と1人再確認中のミリアンヌ。
因みにメルはミリアの膝の上ですでにモフられている。
「皇族しかも皇帝と王女の婚姻となると1個人の問題じゃなくなるからなぁ。持ち帰って兄上に相談するしか無いだろうな」
ミゲルが天井から正面に向き直る。
「ワタクシ、婚姻などしなくて良いのだけれど・・・困ったわ」
頬に手を当てて眉尻を下げる妖艶な美女を見て、顔を赤くするのは聖女であるミリアンヌ。
ミゲルは自分の顔みたいなもんだから慣れっこに決まっている・・・ ダヨネー。
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「取り敢えず、明日の護衛は俺とミリーだ。メル、帰っていいぞ」
ミゲルの言葉を聞いて、
「そういうわけには参りません。吾輩の仕事は本来ご主人様の護衛主任なのですよ。あとはミリア殿のモフられ主任で御座います。故にこの場におふたりが居られるなら吾輩も此処に残るのが道理で御座います」
✣
ツーンと横を向く白猫。最近自分の意見をキチンと伝えるようになってきたメルである。
「そもそも、ミリーがここに来るって言い張るから」
額に手を当てるミゲルに
「大丈夫って言ったじゃないですか! 私のランクだって今はもうミゲル様と同じSランクですもん」
ぷうっと頬を膨らませても可愛いい美少女に、王女とお付の侍女が悶えている。
因みにランクとは冒険者ギルドのランクである。
ミリアはちゃっかりハイドランジア王都支部のギルドマスターに取り入って冒険者登録をしてしまったのである・・・
「お爺ちゃんにも許可貰ったんですもん!」
「・・・ジジイ。あの野郎」
ニコニコと悪い顔で笑う、人外美型@若いバージョン大神官の姿が脳裏に浮かぶミゲル。
「偶には遊んでおいでーって言われました!」
ぷっと更に膨らむ頬袋。リスか?
「あー、もう分かった。夜はミリーは室内。俺とメルは廊下で護衛だ」
「「え? 廊下って」」
困惑顔のミリアとシンシア王女。
「護衛っていうのはそういうもんだ。俺は元々騎士だから慣れてる」
聖王様と聖女様が護衛・・・
王女殿下とお付の侍女が引き攣った顔になったのは仕方がないと思うのである。
合掌。
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