89話 船上での会話
「あら、カイル様。国からの魔法便ですわよ」
ゆったりと進む大型豪華客船のデッキで海風を楽しんでいた妻が突然目の前に現れた、弟の封蝋を押された緑色の封書を風に飛ばされぬように、さっと抑える。
「ゲオルグが魔法便を送るなんて余程のことがあったらしいな」
皇帝である父と宰相の補佐を熟しながら尚且軍の統括まで父から受け継いだ弟は滅多に魔法便を使わない。
「ヤバい事じゃないでしょうね?」
白髪に近い銀髪を風に靡かせながら切れ長な赤い瞳を剣呑に細める護衛騎士。
「見てみる」
私個人宛のようで妻と護衛の魔力には文字が反応しないようだ。
「・・・うえ」
「「は?」」
「父上が」
「「陛下が?」」
「ハイドランジアの王女と結婚するらしい・・・ 既に婚約しているそうだ」
「「へ?」」
妻が首を傾げて
「第2王女のシンシア様ですよね。御年27歳だったと思いますわ」
「え、俺とほぼ一緒?」
「はい」
妻はハイドランジア王国の侯爵家の出身なのでその辺は詳しい。
「17歳差ですか。陛下やりますね~ 格好いいっすね!」
「私達と同じ年齢差ですよね・・・」
妻は複雑そうな顔、護衛はニヤニヤ顔である。
私は、首を捻り1年前にこの船が祖国を出港した時のことを思い出す。
これと言って変わりなく父は外遊、弟は軍の統括と政務、妹は相変わらずハジケていたような・・・
私が無理を言って妻と新婚旅行に行きたいと駄々を捏ねたら苦い顔をされたなと、父にソックリな弟の顔を思い出す。
「一体どうやって知り合ったのかな」
「シンシア様は独身を貫くと国では宣言したと噂されておりましたから、皇帝陛下が熱烈にアプローチしないと婚姻は無理だったのでは無いでしょうか?」
「へーえ、やっぱ流石陛下カッケーすね!」
「・・・」
あの何も欲しがらない、飄々と国を渡り歩く人が結婚する・・・
「信じられん!」
「いやでもコレ、ゲオルグ殿下の封蝋ですし筆跡もゲオルグ様のものですし」
「しかもロザリアが・・・」
「姫が? 邪魔をしてるんすか?」
ロザリアを熟知する護衛兵士が眉を顰めた。
「いや? 王女殿下に隙あらばベッタリ甘えて離れないらしいのだ。しかもアイツがシンシア王女の護衛の騎士として近衛隊に入ったらしい・・・」
「「・・・・はああぁ?」」
3人一緒に、遠くトリステス帝国の方角に思わず首を向ける。
「もうちょいでトリステスに着きますから、まあもっとちゃんとしたことをが分かるんじゃないですかね?」
「まあ、そうだろうとは思うが・・・あの父が、結婚? ロザリアが近衛?」
私はずっと首を捻っていたが、護衛と妻は祝の品に何を贈ろうかと傍らで盛り上がっていた・・・・
船はゆっくりと、祖国に向って進んでいくのであった。




