88話 トリステス入り
とうとう、その日がやってきた。
グエンはいつもの簡易な軍服にマントという出で立ちで、重鎮の爺達はこれでもかというくらい煌びやかな貴族服で皇城の地下室、つまり転移門の設置されている部屋に集まっていた。
「そろそろでしょうかな?」
「あと10分ほどで予定の時間ですな」
「陛下、その服は少し地味ではありませんかなぁ」
「緊張して腹が・・・」
相変わらず賑やかな大臣達である。
「俺一人でいいだろ、何でお前らいるんだよ?」
額に手をやりながらぶつくさ文句を言うグエン陛下。
「何をおっしゃるのです陛下!」
「我らがいかにこの日を待ち望んでいたか」
「やっと陛下が愛するお妃様を迎えるのですぞ」
「我らが希望の光となるシンシア様をお迎えするのですから、この人数でも少ない位なのですぞ」
「「「「我ら爺の楽しみを奪わないでくだされ!」」」」
全員がそろって目元にハンカチを当てた。
もちろん例のアレである。
「わかったわかった、頼むからそう興奮するな歳なんだから・・・・」
「「「「まだまだ若いもんには負けませぬぞ」」」」
「唐突にジジイになったり若いやつと張り合ったりするなよ~」
これを得手勝手爺言わずして、何という? である。
皇帝陛下が遠い目になった。
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転移門が金色に輝くと共に現れたのは、言わずとしれたハイドランジア第二王女シンシアである。
赤を基調とした可愛らしいエンパイアラインのロングドレスは、センターに金色のモール飾りが一本胸の中央から裾まで真っ直ぐに伸びており、彼女の抜群のスタイルがより素晴らしく見えた。
いつぞやの薄手の白いローブを羽織り納まりかけの金の光を受ける姿はまるで女神の降臨のようである。
透き通る白磁の肌に濃紺のラピスラズリの様な瞳には金の星が垣間見え、そこに影を落とす睫毛が嬉しげにまばたきをする。
赤いぽってりとしたつややかな唇が弧を描くと
「グエン様、お久しぶりで御座います」
と鈴の音のような声が響き
「やっとお会いできて嬉しゅうございます」
目元を和らげ、頬を薔薇色に染めて微笑んだ。
その女神の様な神々しさに思わず胸の前に手を合わせ跪く重鎮達を他所に、黒ずくめの皇帝陛下はものも言わずに、性急に歩み寄ると彼女をその腕に閉じ込めた。
「俺もだ」
そう言って彼も満面の微笑みを婚約者に見せた。




