86話 そして
「おおー・・・ すごい!」
ミリアンヌが感嘆の声を上げた。
「小さきモノを侮るなかれよ。角穴兎って食料にも毛皮にもなるし、角とか魔石だしさ。どんだけ優秀?! て感じよね」
あれ、そういえば・・・
「角穴兎って、どうやってハイドランジアからシャガルに行ったんでしょうか? アレって我が国にしか生息してないんじゃ・・・ んん?」
首を傾げるミリアンヌ。
ミゲルがミリアンヌの髪を弄る手を少しだけ止めたが
「・・・ 生き物なんだから勝手に動くさ。国境なんぞ関係ないだろ」
と、嘘くさい笑顔になった。
「そうそう。魔獣の生態って未だに全部は解明されてないんだしさ」
続けてお爺ちゃんが笑いながらお茶を啜る。
「第一、1年前だって蜂やらカマキリやらハイドランジアに入り込んで大騒ぎだったじゃねーか」
そう言いながら恋人の薄薔薇色の頬にキスを落とすミゲル。
「そうですね。確かに・・・」
思考は中断し、赤くなるミリアンヌ。
「それよりミリー、ホレ。あ~ん」
そしてテーブルの上にあるリンデン産チョコレートをニコニコしながら恋人の口元まで持って来るミゲル・・・
「え、いやその」
「何だ、俺の甥っ子達には簡単に口を開けるだろ。じゃあ俺にも『あ~ん』が出来るよな~」
「あわわ・・・」
真っ赤になってテンパるミリア。
それを横目にお爺ちゃんは番茶を啜り、白猫メルヘンは更に大欠をして窓際で丸くなる。
ミリアンヌがこうして誤魔化されたのは間違いないだろう・・・
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一方、今回の崩落事故で王城が崩壊し住む場所が無くなり、王都の外れにある離宮へと家族とも共移住を余儀なくされたジャージル国王。
しかし本妻と側室が一緒の屋敷に住むなどという異常事態が上手くいく筈もなく、元々疎遠だった王妃は離縁して実家である貴族家へ王子を連れて帰ってしまった。
子供のいない側妃は残ったが、後宮で養った経済観念は無くならず贅沢三昧を繰り返し、ジャージルの懐を圧迫した。
彼自身は王城の再建を計画するが土地の強度が足らず遷都も視野に入れなければならなくなり、土地の選定中に更なる崩落事故が起こり、そこの補修工事に着手するがまたも崩落。その繰り返しで急激に国費を散財する羽目になった。
国王ご自慢の間諜達や魔法奴隷も全員居なくなってお手上げ状態だったシャガル国王ジャージルだったが、何とか手持ちの私財で持ち直すかと思えた所に、トリステス帝国がジャージル王の姪に当たる者が自国の貴族家を違法に乗っ取ったと国際法定に訴え、トリステス側が勝訴。
グエンは喜んで前回の違法侵略事件と共に膨れ上がった賠償金を請求した。
又国際法廷からは、法廷への支払い未払いを完済する事(法廷を開くと支払い義務が敗訴側に発生する)を迫られた。
そうこうするうちに改革派のメイソン王弟殿下と現国王に不満を持つ貴族達に退位を迫られ、とうとう国王は玉座を手放したのであった・・・
そして10年後――
シャガル王国は当時の国王メイソン・スハイド・シャガルの手により、王政と貴族制度を撤廃し元王国はシャガル共和国という国に生まれ変わる。
10年玉座に君臨したとはいえ、常に国民と寄り添い民と共に生きたと言われたメイソンは退位の場で
「コレでやっと王族とオサラバです。皆さんありがとう!!」
と少年の様に万歳三唱をしたらしい。




