84話 検問所 ✢
その夜、ハイドランジア王国とシャガル王国の国境にある検問所は実に静かであった。
月明かりの下で建物の外の見回りをしていた兵士が大欠伸をすると、もうひとりの同僚に肘で小突かれた。
「おいおい、緊張感が無さ過ぎだろうよ、噂じゃグラークで王城がぶっ壊れたらしいってのによ」
「だってよ~、ありゃ城の下を坑道跡が通ってらしいじゃないか、そりゃあ崩落するよ」
「まあなあ、この国が貧乏になっちまったのは鉱石を掘り過ぎたせいだしなあ」
相棒の言葉に呆れ顔になる兵士。
「ばっかだなあ、鉱山で儲けた分をお偉いさんが考えなしに使ったからだよ。要は甘い汁吸い過ぎたんだ」
「シーッ 誰かに聞かれたら不味いだろ」
咎められた兵士が肩を竦める。
「昔と違ってハイドランジア王国と戦争してる訳でもないし、こんな夜中に国境超える酔狂な奴なんている訳ないさ」
「まーな」
そう言いながら、小さく笑う兵士達の真後ろの茂みで『カサカサ』という音がするが、あまりに小さい音なので2人共気が付かない。
次第にアチコチの茂みから同様の音がし始める。
『カサカサ』
『カサカサ』
「なあ? なんか変な音がしねえか? そこら辺の茂みでさ」
「んー?、そういやあ・・・」
2人は振り返ると耳を済ませる。
『カサカサ』
『カサカサ』
「「?」」
顔を見合わせると、1人が茂みに近づきそっと覗き込む。
途端に茂みから何かが飛び出してきた。
「うわっ! 何だ?」
「おい、大丈夫かよ」
飛び出してきた灰色の塊はぴょんぴょんと跳ねて、違う繁みに飛び込んでいく。
「うさぎじゃねえか? あの動き方・・・」
「何だ、野ウサギかよ。びっくりした~」
驚いて尻餅をついた男が立ち上がってズボンに付いた土を払う。
「兎は夜行性だからな」
もうひとりが笑う。
「魔物じゃなくて良かったな」
「ホントだよ~」
ぴょんぴょんと跳ねる兎の後ろ姿を見ながら
「早く家に帰れよ~」
と笑う兵士達。
暗闇の中で、すばしこい動きで去っていく兎の額に小さな黒い三角の角が生えているのに彼らは気が付かなかった。




