8話 やっぱ、報・連・相って大事だと思うんだよね
歓迎会といえばパーティ?
さて、転移門を使ってハイドランジアからトリステスに単身渡ったとはいえ、シンシアはれっきとした王族である。今回はお忍び同然ではあるが、正式な交換留学なので国賓として饗さないわけにもいかないであろうという宰相以下トリステスの重鎮たちが彼女の為に夜会を開くことにしたのであるが・・・
「夜会ですか・・・」
シンシア王女にめっちゃ嫌そうな顔をされ、恐縮するオジサン達である。
「出来れば夜会は御遠慮したいですわ・・・」
思いっきり顔を伏せて溜息をつかれてしまう・・・
『『『やべえ、失敗?』』』
女性ならパーティーの類は好きであろうというオジサン達の目論見は大外れである。
華やかで妖艶とさえ言える見た目に反し、彼女は社交は大嫌い。どっちかというと引きこもって部屋で本を読んでいたいという女性である。
そりゃあ夜会とか迷惑だよね。
「まぁ~、本人が嫌だっつうんだから、中止にすりゃあいいじゃないか」
「陛下・・・」
めちゃくちゃ自由な皇帝陛下である。
「そう言われましても、上位貴族に招待状を送ってしまいましたぞ陛下・・・」
「俺は許可してねえぞ」
「ゲオルグ殿下の許可です」
「チッ・・・」
お行儀悪く舌打ちする自由人だがこれでも一応この国の代表者。
「しょうがねえなあ、最初の方だけ顔を出して貰えると有り難いんだが? シンシア殿」
小首を傾げながら
「わかりましたわ、陛下」
浅いカーテシーをするシンシア。
「では5日後のパーティまでは各工房の視察をさせて頂けますでしょうか?」
「もちろんだ。其のためにトリステスまで来たんだからな」
「はい。その通りですわ」
ニコリと笑顔になるシンシア王女にグエンの灰色の瞳が優しく瞬いた。
そのやり取りの横でホッと胸を撫で下ろしている重鎮たちであった。
××××××××××
トリステスの皇城には後宮はない。
女性の皇族も家族と共に皇城の中心部分にある住居区画に住んでいる。帝国は随分昔から側室制度は撤廃している国でもあるのだ。
ハイドランジア王国は城の中に他国の賓客を招き入れ女性は後宮内の客室へ案内されるが、ここトリステス帝国では皇城の敷地内にある庭園を挟みながら離宮がいくつか建っており男性なら蒼の離宮へ、女性なら紅の離宮へ部屋を構えられ滞在するのが一般的である。
その紅の離宮の客室の1つにシンシアは滞在することになる。
ハイドランジアから付いてきた侍女が1人、部屋を快適に保ったり王女殿下の身の回りの世話のために続き部屋に待機しているのだが、今はやや疲れているであろう王女の為に薫り高い紅茶の支度に忙しそうだ。
「メルちゃん、いるかしら?」
夕方、貸し与えられた部屋に戻り、侍女が用意した紅茶を飲みながら早速メルヘンを呼び出す王女殿下。
「はい、ここに」
キラキラとソファーに座るシンシアの正面が光り始めるとメルヘンが現れた。
ちょこんとお座りをしている。
「夜会用のドレスを持ってきたいのよ。其のために一度ハイドランジアに戻りたいのよね」
「はい。王女殿下」
「どうしたらいいかしら?」
「僭越ながら、此処から皇城地下の転移門へ一度跳んで、更にそこからルクス大神殿に戻るのが宜しいかと」
「此処から直接は駄目なのね」
「はい。正直吾輩1人なら可能でしょうが、海を渡るほどの距離ですので殿下を連れて跳ぶ程の自信はありません」
「そう。仕方ないわねじゃあ一度帝国側に断りを入れてからにしましょうか。メルちゃんも一度神殿に戻るんでしょう?」
「はい。交代する者が来てからですが」
「それっていつ来るのかしら?」
「本日の夜です。引き継ぎも御座いますのでしばらくの間護衛が2人になり、引き継ぎが終わり次第先に居た者が神殿へ帰る、という方法を取ります」
「ややこしいのね」
「引き継ぎの場面以外は隠蔽魔法で姿は見えませんので、余り気になさらずとも大丈夫でございます」
そう言いつつメルはピクっと髭を動かす。
「もうおいでたようですね」
「え、何処?」
「お気になさらず。それではまた後ほど」
恭しく礼をしながらキラキラと光りを撒き散らしながらメルの姿は消えてしまった。
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