79話 対話 ✢
ホテルに着いたスハイド公爵はその中階層の一室のドア前にやって来ると、まず3回、間を置いてから2回。正確にゆっくりとノックした。
ドアの施錠が外される音がして、開けたドアの向こうにいた人物が声を掛けて来る。
「よう、えらく早かったな」
出入り口に立っていたのはトリステスのグエン皇帝その人であった。
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「なんかシケた顔してるぞ? 何かあったのか?」
部屋の中に入り、ソファーに座るなり声をかけて来るグエン。
「まあ、自分には楽しい場所では無いですからね」
公爵は肩を竦め苦笑いをすると、
「其れよりお聞き願いたいことがあるのですが・・・」
「? 何だ?」
「王城の廊下ですれ違った貴族女性2人連れがいたのですが・・・」
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メイソンが廊下で見聞きした情報を聞くと、グエンは難しい顔をして考え込んだ。
「俺の記憶では、国内貴族でシャガル出身の王族どころか貴族家の娘すら嫁に貰う事を許した事は無いぞ?・・・ だが、そんな嘘をお前が俺に教えた所でなんの得もしねえもんな・・・」
「ええ。しかも彼女達はハイドランジアのシンシア王女と貴方が婚姻を結ぶのでは無いかと気をもんでいました」
その言葉を聞いて、ウッとなるグエン。
「ま。まぁ・・・ 」
「・・・確か私の記憶では、シンシア王女とグエン陛下とは一回り以上離れていたんじゃ無いですかね?」
「う・・・うン、まぁな・・・」
「・・・グエン?」
ゴホンと咳払いをするグエン・トリステス陛下と、やや冷めた目の公爵閣下。
「しゃーねーだろッ!! 惚れちゃったんだからッ!」
真っ赤な顔をするグエンに、ニヤリと笑うメイソン・スハイド公爵。
「で? 私の遠戚の女性とあなたの婚姻を知っていそうな者達となると、そのパーティーに居たものという事ですよね」
「ああ。其れなりの高位貴族ということだな。しかもその女供が言ってた山小屋ってのは彼女が連れ去られて閉じ込められてた場所だ」
「物騒な話しになって来ましたね」
「ソレを知ってる貴族は1人も居ない筈なのに知ってるってえ事は、その女供が共犯にしろ主犯にしろあの時の事件に絡んでるって事だ」
「どうやら私の姪と姪孫らしいですが、見たこともありません。まあ、私にとっては其れはどうでも良い事ですけど問題はジャージルにゴリ押しでも面会ると言う事ですよね。言うならば彼の手駒、若しくは間諜のような役割を担っていそうだって事です。手伝った密偵という言葉も気になりますし・・・って、うわっ!」
「!! おい!」
突然、向かい合わせで座っていたソファーの間の空中にに金色の魔法陣が現れ、その真ん中を割るように白い猫が現れたのだ。
「ご歓談中失礼いたします。吾輩、ハイドランジア王国のルクス神殿聖獣、メル・ルクスでございます。以後お見知りおきを」
まるで、人間のように後ろ足で空中に立ち、貴族の礼を恭しくスハイド公爵に向かい披露するのは、メルヘンであった・・・




