78話 馬上の人 ✢
時は少しだけ巻き戻り、シャガル王の執務室から退出後、そのまま城門から馬に乗って王都中心部にあるホテルへと向かうスハイド公爵。
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城門から出る直前に侍従に明日もう1度登城する旨を伝えていた時この国の高位貴族に呼び止められ、そっと耳打ちをされた。
「このままではこの国は立ち行かなくなります。陛下は我々の意見には耳を傾けてくれません。スハイド公。貴方様も御心をお決めください」
緊張をはらんだ小さな声とは裏腹に彼は笑顔で『それでは失礼します』と、挨拶を大きな声ですると、そのまま王宮内へと去っていった。
公爵はその言葉には何も答えず、軽く会釈だけをしてその場を立ち去った。
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「私に期待されてもねえ・・・」
そもそも、前国王の父つまり顔も知らない彼の祖父に当たる当時の国王が今の国の体制、要するに貴金属の輸出で外貨を稼ぐ事を主軸にすると方針を変えたのだ。
それまでの国内の主要農産物や牧畜業といったものを切り捨てて。
そのせいで平民男性はほぼ鉱山に従事させられたと聞いている。
女性だけで第一次産業を続ける事は難しい。どんなに頑張っても体力だけは、男性に劣っているからだ。
結果、農村や牧畜業は廃れ、国内の生産高はどんどん衰えていった。
だが貴族達はその事には目を向けずその政策に賛同し昔以上に贅沢を繰り返すのが当たり前になった――
元平民の母親はその事を幼い彼に懇々と言い聞かした。
「いいかい? 親は食い扶持を自分で稼ぎ、自分の養い子は大切に育てる。その子が大きくなったら、また次へと同じように延々と続く。そうでないと家族はやって行けなくなる。国だって同じだ。あれは稼いでるんじゃなくて、土地や平民から搾取してるだけだ。大きくなるまで生き残れたら、メイソン、アンタは絶対に間違っちゃ駄目だよ」
そう教えてくれた母は結局、他の側妃に毒を盛られこの世を去った――
その後彼は、後宮内で隠れるように使用人の中に紛れて育った。
義兄である現国王が即位した頃、他の兄弟達はほとんどが亡くなっていた。類まれな魔力を有する彼を殺すのは惜しいと思った前国王の計らいがあり、ジャージルとその母親が手を出せなかったせいもある。
その後継承権は手放すことを条件に先王に公爵位と海沿いの自領を賜り、母の教え通り自領の生産性を上げて発展させていった。
その内自領で生産した乳製品や農産物を加工して独自に外貨を稼ぐ為に南大陸と海外取引きを始めた。北大陸の国だとジャージル国王に目をつけられ面倒だったからに過ぎなかったのだが、そのおかげで南の覇者であるトリステスの皇帝グエンと友人になり、彼を通じて外貨が稼げるようになったのだ。
爵位を与えられ一貴族になったと言っても、彼は自領の民達と力を合わせて捨てられていた農産地の改革を推し進め自領を富ませる事に尽力して今のスハイド領を作り上げたのだ。
因みにスハイド領には鉱山は無い。
当時の王である父親も貴族達も見向きもしない貧しい領地だった為、其れを分け与えられたからと言って他の貴族達から文句が出るような土地では無かったからこそ、自由に出来たと言っても過言では無い。
「王弟ったって、見向きもしなかった癖に何を今更・・・」
生き抜くことに必死だった幼い頃、助けて育ててくれたのは母の周りの平民上がりの召使い達だけだ。
母を邪険にした側妃達の召使いは低位貴族出身のものばかりで、自分を見つけたら側妃達に報告をして捕まえようとする奴らばかりだった――
そんな彼が自分が王族であることにも、貴族達の事にも興味がある筈が無い。
――御心をお決めください?
「知るか・・・」
馬上の人はそう呟いて城を後にした。




