76話 独房の王女様 ✢
「困ったわ、どなたもいらっしゃらないみたいだし、私の出来そうな事は何も無さそうだし」
頬に手を当て、ため息混じりに小さく呟きながら眉根を寄せるシンシア王女。
「せめてココがどこが分かればいいのですけど・・・」
引き続き簡素なベッドに腰を掛ける。
まあ、ベッドと言ってもスプリングの効いたマットレスや清潔なシーツがあるわけではなく、ただの木のベンチが大きくなったような代物だが・・・
「不可抗力だったとはいえ、今頃魔塔は大騒ぎじゃないかしらね」
「そうですね」
いきなり足元で声がした。
驚き彼女が下を向くと、二つの淡青色の瞳が此方を見上げている。
「まあぁ! メルちゃん。お久し振りですわねぇ、お元気でしたか?」
相変わらずのマイペースなシンシア王女の姿を、薄闇で少しだけ大きくなった瞳孔で捉えながらメルヘンは後ろ足でスックと立ち上がって
「お久しぶりで御座います。王女殿下」
そう言いながら恭しく貴族のお辞儀を丁寧に披露した。
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「では、ここはシャガル王国の王城の地下牢なのですね?」
薄暗い牢屋の中を興味ありげに見回すシンシア王女。
「はい。本来なら普通の移転用スクロールで通り抜けることは出来ないのが我がハイドランジア王国の結界なのですが、シャガルのデタラメな組み合わせの魔法陣が描かれたスクロールと王女殿下の聖属性の魔力が組み合わさって奇跡的な確率で結界を突破してしまい、殿下はこの牢屋に飛ばされたのだろうと愚考致します」
王女の足元で貴族の簡易な礼をしたまま今の状況を説明する聖獣メル。その長い尻尾は若干不愉快そうに蠢いている・・・
「現在は結界を守っている結晶内のエネルギーが吾輩めのモノなので異変に気づきお迎えに参上した次第でございます」
「ごめんなさいね、お世話をかけてしまって」
「いえ、ご無事で何よりです」
「大神官様はこの事はご存知?」
「はい。後、魔塔の責任者のシンフォニア伯爵と国王陛下もご存知です」
安心したように頷くシンシア王女。
「其れと、殿下をフリージア城にお連れする場所なのですがどちらがよろしいでしょう? 殿下の私室でしょうか?」
「え、何でかしら? 魔塔でもお父様の執務室でも宜しくてよ?」
「・・・ 恐れながら殿下は移転の際に落とし物をされておられまして・・・」
一瞬キョトンとした表情をした後で自分の身の回りを見回し首元のネックレスを手で確認する王女。
「え、何かしら」
「・・・恐れながら、下の方の下着を魔塔で回収致しております」
思わず、ドレスのスカートの部分の前を抑え赤面するシンシア。
「ですので、私室に移転して先ずはお召し物を整えられたほうが良いのではと・・・」
頭は下げた状態で軽く胸元に片手を当てる姿勢はそのままで、メルヘンの白いモフモフした尻尾だけが、ダランと床に垂れ下がった・・・




