70話 ハイドランジアの魔塔 ✢
一方こちらはハイドランジア王国内の首都フリージアの中央区にドーンと存在する王城内にある魔法師団塔、通称『魔塔』である。
ここは王宮魔道士達が在中する研究棟と訓練棟が一緒になった建物で、王城における魔道具開発から魔物の研究、魔法戦の模擬訓練まで、ありとあらゆる魔法に関することが行われる場所だ。
魔力研究の失敗で爆発や感電なども稀に起こす場所でもあるため当然防御結界は張られてはいるが危険区域指定がされており、許可のない者は近付くことはできない建物なのだが、実はハイドランジア王国第二王女であるシンシアはこの塔に研究者として登録されており個人の研究室も与えられている。
例の廃棄用くず魔石の再利用で作られた染料もここで作られたものである。
本日は新たな魔石の入荷が報告されたため、シンシア王女もやってきていた。
「まあ、まるでルクス神殿にある魔石の様ですのね」
頬に手をやり、ほぅ、とため息をつきながら瞳を輝かせるシンシアの目は研究者のソレであった。
ルクス神殿の中央拝殿の聖堂に置かれている、水晶のように透明なものは最近大きなものが見つからなくなっているため貴重なのだ。あれは魔物ではなく魔族が住むような場所でしか見つからないと言われており、もう長いこと魔族がやってこなくなった北大陸では見ることはなくなった。
今回の魔石は南大陸、つまりグエンの治めるトリステス帝国からハイドランジア王国へ贈られたものである。まぁいうならばグエンとシンシアの婚約時の結納の品である。
「素晴らしい高エネルギーを帯びていますね」
シンシアに負けず劣らず瞳をキラキラとさせているのは王宮魔道士長であるテイラー・シンフォニア伯爵と、その息子であるマーロウがその横でしきりとコクコクと頷く・・・ つまりオタクが三人で寄ってたかってキャッキャウフフとしている真っ最中である。
シンシア付きの侍女は壁に擬態し、表情を無にしてそれを眺めている・・・・ 実にご苦労様である。
そこへ突然やってきたのが若手の魔導士見習い。
「失礼します、魔導士長。例の簡易スクロールの劣化版の解析が終了しました」
彼はこの魔塔に最近入ったばかりの若者で、トリステス帝国の森でシンシアにより保護された例の三人家族の一人で弟の方である。
あの時の家族は全員無事ハイドランジア国民として戸籍登録され、検査の結果闇魔法の持ち主であったことが判明し、王宮魔道士見習いとして受け入れられた。
生活全般をこの魔塔で過ごし奴隷時代に受けられなかった平民の一般教育も、親子揃ってここで受講中だ。
「あ。王女殿下! 失礼しました!」
「あら、あなたは・・・。皆さんお元気かしら?」
「はいっ皆元気に過ごしておりますっ!」
顔を赤くして慌てて臣下の礼をとる若者に、にこりと笑顔を見せる王女殿下。この親子、特に兄弟達は自分達を救ってくれた彼女を女神のように崇めているのはその態度でありありと分かる為、ほかの魔導士達から生暖かく見守られているのは余談である・・・
「シンフォニア卿? 簡易スクロールとは一体何かしら?」
「はぁ、実は・・・」
本来スクロールはハイドランジアの王宮魔道士達が作っている魔道具の一種である。
魔法をうまく使えない者のために様々な物が存在しており小さな火をおこすものや、飲み水を生み出すもの、光を灯すものなどが一般的に市中の雑貨屋等で売られている。
その中でも転移スクロールだけはルクス神殿の取り扱いとなっており、これだけは国際冒険者ギルドでしか取り扱えない規則がある。
スクロールの使用時に人間が思いもよらないところに跳ぶのを防ぐため、講習をしっかりと受けたギルドの冒険者しか買うことが出来ない決まりになっている。
所が、この見習いとなった親子の懐からその転移スクロールの劣化版のようなものが見つかったのである。
本人達は奴隷紋の影響で記憶が曖昧であり、なぜ持っていたのかも覚えていなかった為魔塔で出所と性能や実態を調べることになったのである。
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「まあ、十中八九シャガル製だろうと思いますが、あまりにも雑な仕上がりなのですよ」
ため息をつきながら彼女をエスコートしながら廊下を歩く魔導士長が肩を竦めた。
「雑? とは?」
「跳んだ先で使用者が無事でいられると思えません。描かれている魔方陣が正確とはいい難いものばかりでして」
「それは・・・ 考えただけでも恐ろしいですわね」
「それがどういう結果を引き起こすのか考えていないとしか思えないシロモノですよ」
とんだ拾い物だったようである。




