7話 フラグは先手必勝で叩き折れ・・・るかなぁ?
キタヨ問題児。
トリステスの皇族用居住区画は皇城内の中心部分にある。
その1室で噛んで含めるように緑色の騎士服をピシッと着込んだ女性に言い聞かせられている皇族女性が1人。
「え、お父様が女性を連れ回して口説いてる? はぁ? どういうこと」
「いえ、そうでは御座いません。何故そういう形に要約されるのですか?」
彼女は口を尖らすとピンクのクッションをギュウっと潰した。
「だって、リンダがそう言ったんじゃないの?」
彼女のお付の家庭教師兼護衛兼侍女は眼鏡を中指でクイッと上げる。艶のあるブラウンの長い髪はスッキリと一括に纏められて背中に垂らしてある。
「私は、『城内で陛下が意中の女性に婚姻の申込みをするべく懐柔している最中ですので、決して邪魔をしないように』と姫君に釘を刺したのです。其れがなぜそのような下品極まりない表現になるのですか?」
「だってそういうことでしょう?」
「脳機能障害ですか?」
「何よそれ?」
「つまり、邪魔をするなということさえ理解出来ればそれで宜しいです」
全く動じない家庭教師の眼鏡の奥から冷たい視線が突き刺さるのを感じ取り、思わずビクッとするのはこの国の第一皇女ロザリア・トリステス。
濃い紫色の髪はフワフワと広がっており、ツインテールに纏めてある。瞳は薄茶色をしており、若干タレ目気味でパッチリとしていているためか幼気に見える。
鼻先のソバカス跡は随分無くなり兄達に比べると肌は白く、ちょっと見は仔犬のように愛らしい容姿をしている。
黙っていればお人形の様に可愛いのだが如何せん過激派とでも云えば伝わるのだろうか、思い込みが激しく世界は自分中心に回っていると考えているフシがある。
昨年ハイドランジア王国への永久的立入禁止を喰らった世界的迷惑有名人ランキングナンバー・ワンのお嬢様である。(当社調べ)←
「姫、このトリステス帝国は男女共に15歳で成人を迎えます」
「ええ、そうだわね」
「何故、成人より5年も過ぎているというのに、その程度の理解力なのでしょうか。理解に苦しみます」
「・・・・」
「とにかく陛下の邪魔をするのを一切禁止いたします。宜しいですね」
「はいはい」
「ハイは一回で御座います」
「ハイ・・・」
どんな女か絶対に見てやるんだ! と心に誓うロザリア皇女。
この家庭教師兼護衛兼侍女であるリンダには散々痛い目に合わされている筈なのに懲り無い皇女である・・・・
「言いつけを守らない場合は、お茶の時間が無くなり、その代わり剣術の時間と外国語の時間が大幅に増えますので」
「えっ!」
眼鏡の奥の目がキラリと光る。
「以上でございます。なにか質問はございますか」
「ありません・・・」
チクショウ、なんで分かるのよ? と悔しさに腹の中で地団太を踏む皇女である。
そしてそんな彼女に向かって薄い唇の橋を持ち上げながら、
「休憩時間は終わりで御座います。鍛錬を続けます。立ちなさいロザリア・トリステス騎士見習い」
ニンマリ笑うリンダの笑顔に背筋が凍るロザリアである。
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そんな訳で。
宰相閣下やゲオルグ皇子の心配を他所に鬼の家庭教師、女性騎士リンダによるロザリア皇女の牽制は事無きを得るべく終了したのである。
やったね、皇帝陛下。
後は口説くだけだぜウェー!
しかし、そうは問屋が卸さないのであった。(テンプレ)
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『え、なんであの人、ミゲル様と同じ顔してるの?』
皇城内にある図書館は兎に角だだっ広く、しかもありとあらゆる国の本や最新の情報が収められている。
その目の回りそうな巨大な蔵書棚の直ぐ前に置かれている皇族専用のカウチソファーに赤いドレスの女性が1人座っているのが見えた。
レースカーテンが掛かった窓から柔らかい日差しが彼女の艶めいた黒髪に天使の輪を作っていて、長いまつ毛に縁どられた瞳は真剣にじっと手元の本を見つめては、時折手元の手帳を捲りペンを走らせている。
書棚の影からこっそり覗くロザリア皇女は、ハイドランジア王国元王弟ミゲル・ハイドランジアつまり現聖王の1人であるミゲル・ルクスの元国際認定ストーカーであった←
そんな彼女がもう会う機会が全くなくなったとはいえ、憧れの彼と同じ顔の女性を見つけて大人しく出来るわけが無いのである・・・
今日もお読み頂きありがとうございます(_ _)