66話 密書と面白い誤算
本日もお読み頂きありがとうございます✧◝(⁰▿⁰)◜✧
時は少しだけ遡る。
本日も変わりなく執務を熟すグエンの部屋のドアにノックが響く。
「陛下、お知らせが届きました」
「おう、何だ?」
シャルム宰相が魔法便を手に執務室に入って来た。
封蝋は国際法廷のもので薄いブルーに金が混ぜられたものである。
「シャガルの国際法違反が認められました。判決としては我が国に対して交戦規則法違反の賠償金を払うことが1つと、諜報活動組織の撤廃が1つ、他国の王家の騎士団家族を拉致監禁したことへの賠償と保証ですな」
「まあ、落とし所だろうな」
眉根を寄せる皇帝グエン。
「こちらとしましては、ひと月近く無駄飯食いを養いましたので、そちらに対する賠償金も含まれる額ですな、あといつものお定まりの人権保護違反ですな」
「払うかな? 金が足りないんじゃねえか?」
宰相は肩を竦めた。
「少なくとも既に諜報組織は瓦解しておりますがな」
「まあ、ほぼウチにいるからな」
「そうですなぁ」
2人は執務室から遠くに見える黒い塔を窓から眺める。
「拘束期間の延長とか言われても困るから、送りつけるか?」
「シャガル王国へですか?」
「他にどうすんだ?」
「こっち持ちは無しですぞ。その分上乗せして貰いませんとな」
「入ってないのか?」
「今の所、延長分の金銭の支払い命令もないですし、更迭費用も含まれておりません」
「じゃあ、今直ぐ放り出すか、首を跳ねるかってことになっちまうじゃねーか」
「お役所仕事ですな」
「木偶の坊かよ、法廷は。もう1回上告しとけ」
「はい。あと、密書が届いております」
シャルム宰相が懐から黒い封筒を取り出し執務机の上に置いた。
「ああ例の王弟殿下か」
そう言いながら、宛名も差出人も見当たらない魔法便の封を切る。
「へえ・・・」
「どうされましたかな?」
「愚王陛下がご乱心かな。ちょいと行ってくるか。領主様のSOSだ」
後頭を掻きながら椅子から立ち上がると
「ゲオルグにあとは頼む。俺は至急港に向かう」
シャルム宰相が無言で臣下の礼を取り、退室していく。
はあ、とグエンがため息をつく。
と、同時に『ばあーん』とドアが開く。
「お父様! 何の知らせでしたのっ!」
はぁ~、と額を抑えてもう一度ため息をつく皇帝陛下。
「国際法廷からの知らせだ。黒の塔の罪人に対することとシャガルに対する判決だ」
ジト目になって答える皇帝グエン。
「あら、ハイドランジアからじゃないんですの?」
赤い騎士団服を着たロザリア皇女である。
「ち・が・う!」
「なぁ~んだ! 早くシンシア様がお母さまになってくれるといいのに~ ガッカリだわ。来て損した。チッ」
彼女はそそくさとドアから出ていき、『バターン』と閉じる音が部屋に響く。
はあああぁ~ とグエンの口からもう1度溜め息が出た。
××××××××××
ロザリア皇女は意外にも再婚には反対しなかった。寧ろシンシアがこの国を訪れる事を楽しみにしているようである。
しかもグエン目当てで皇城に湧いて出る独身貴族女性達に向かい
『アンタ達みたいな雌豹に、お父様はあげないんだからね! あの美しい方が相応しいんだからサッサとお帰り!』
と喚きながら精力的に追い出しているらしく、侵入者を追い出す仕事が減ったと騎士団も重鎮達も喜んでいる。
何しろ高位の貴族の子女となると、親の地位をひけらかして自分達より下位の騎士達を押し返し無理矢理グエンに会うために謁見の予定などなくても強引に皇宮まで入り込んでくる事も多いのだ。
しかし何を隠そう、この国の最高位の独身女性はロザリア皇女である(笑)
彼女に敵う身分の独身の貴族子女は、この国に存在しない。
ある意味彼女を味方にすれば皇帝の予定をもぎ取るのには無敵かもしれないが、ロザリア自身が
『貴族の娘達は全方位に向いて敵!』
という考えなので、友達どころか知り合いですらいない。
しかもその彼女がシンシア王女と皇帝である父との結婚を心待ちにしているという大誤算が生まれたのである。
勿論皇帝と重鎮達にとってはいい意味での誤算であったので大歓迎なのだが、先程のような『早く結婚しろコール』に毎日のようにグエンが晒されるという、悩ましい事態になってはいるが・・・
「俺だって早く結婚したいわっ!」
執務室に響いたイケオジの叫びが、悲痛に聞こえたのは多分気の所為ではないだろう・・・




