65話 シャガルの国王 ✢
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そのお世辞にも美しいと言い難い姿の男の頭の上に載った、大きな赤い宝石がはめこまれた王冠がグラリと揺らいだ。
「どうしてトリステスに送り込んだ間諜どもが何の連絡もして来ぬのだ!」
自身の座る豪華な玉座の肘掛けに苛立たしげに握り拳を『ドンッ』と打ち付け、目の前に立つ痩せぎすの貴族服を着た男を睨む。報告をしにやって来たその男は感情の抜け落ちた顔をしてから首を横に振る。
「恐れながら、報告は何ひとつ届いておりません。理由は不明です。追加で送った者達の消息も途絶えております。報国は以上です」
淡々とそう言うと、彼はシャガル国王に向いお辞儀をしてくるりとドアに向って踵を返し出ていってしまった。
彼の後ろ姿を追う様に国王が手に持っていた錫杖がドアに向って、投げつけられたが、その前にドアが閉まって文官はさっさと逃げて行ってしまった。
ここ数年でシャガルの主産業である、鉄鉱石の採掘の産出量が急激に落ち込み、次々と国内の鉱山が廃棄処分になった。それに伴い経済が落ち込み税金の回収の低下が著しく、王族も貴族も当然ながら今までのような贅を凝らした生活はジリジリと質を落していかざるを得ないのが実情だ。
鉄鉱石を始め、様々な宝石や鉱石を輸出し外貨を稼ぐための取引先の他国は、この以前のトリステス帝国へ送り込んだ間諜達の失敗による国際批判が高まったせいで次々と契約を破棄してきた。更には国際法廷が勝手に出した判決によりトリステス帝国に多額の賠償金と保釈金の支払いの命令書を3日と空けずに魔法便で送りつけて来る。
この玉座を手に入れ、王として君臨して以来こんな状況になったことは一度たりとしてなかったのだ。
国王ジャージルはイライラとしながらもう一度肘掛けに向かい、握り拳をぶつけて八つ当たりをする。せめて魔法奴隷だけでも取り戻さなくては、この国の国王である自分の行く末が危ぶまれるではないか。
彼は寝不足で濁った目で、玉座の脇にある書類の束を睨みつける。王族の婚姻の申し入れをするための綺羅びやかな釣書が返却された事を示す赤い印を表紙に押されているものである。
「せめてハイドランジアの聖女か王女を手に入れる事が出来れば・・・」
彼の国の国民を奴隷として攫う事は、歴史的に正当性が裏付けられているのだ。何故国際法廷で違法だと糾弾される?
婚姻という形で合法的に手に入れられるよう謙ってやったというのに・・・
「気に入らぬ」
窓の外に広がる曇天に濁った目を向けるジャージル国王。
「あの男を呼べ」
出入り口近くに控える侍従に向かってぞんざいな素振りで命令する。
「儂の名ばかりの義弟という、偉そうなヤツを領地から呼びつけろ」
侍従は、一礼して静かに玉座の間から静かに出ていった。




