6話 愛を乞う皇帝陛下
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皇帝陛下がシンシア王女を案内したのは先ず、皇城にある図書室である。
「まず帝国内の地図を見てみるか?」
「地図でございますか?」
「紡績の工場や工房へ行きたいんだろう? 後は魔石の最新の情報だな」
「ご存知でしたのね」
「まあな。大体の情報は摑んでるからな」
廊下の天井を見上げながら、歩を進める皇帝陛下。
艶のあるチョコレートブラウンの長い髪を一括にしており、少しだけ短い前髪がその動きでハラリと額に掛かる。
「陛下の髪は美しいですね」
「そうか?」
嬉しそうに顔を輝かせながら、シンシアの顔を覗き込むグエン。
その瞳は冬の曇り空のような灰色で虹彩はサファイアのようなブルーという珍しい瞳の色である。
よく日焼けをした浅黒い肌と相まって不思議な雰囲気を醸し出している。
年齢が43歳と聞いてはいるが溌剌としていて若々しく、20代後半から30代と言われても誰も疑わないだろう。
「陛下は目もとても美しくていらっしゃるのですね。まるで瞳に冬の全てを閉じ込めたようですわ・・・」
思わず溜息をつき、うっとりとした表情で不思議な虹彩を湛えた瞳に見入ってしまう。
「でも王太子殿下も第2皇子殿下も、短く切り詰めてらっしゃるのに陛下は何故か長いのですね」
「ああ。俺は城を空けることが多くて、年中旅ばっかりしてるからな。短くするより長い方が手間がかからんのでな。まあ、切ったところで気が付いたら伸びてきて引っ括っといた方が楽なんだが」
ふと気が付いたように眉を寄せる陛下。
「なんだ、短いほうが好みか?」
それに答えるようにニコリと笑う王女。
「いいえ、ハイドランジアでは魔力は髪に宿ると言われていて、男性でも貴族は長い髪の方が多いので寧ろ見慣れておりますのでホッとします」
「そうか、じゃあ、このままでもいいか」
「あら? ワタクシが短いほうが良いといえば不便でも短くされるのですかしら?」
うふふ、と笑うシンシアに向かい
「当たり前だろう。愛を乞う女性の好みに合う方がいいに決まってる」
「・・・あら」
そう呟いたシンシアの顔は薔薇色に染まっていた。
「美しいのは貴女の方だ、シンシア王女。その姿、まるで夜の女神だ」
白磁のようにきめ細やかな肌に大きくウェーブした艶のある黒曜石のような黒髪。
意志の強そうなアーモンドアイは形良くカールした睫毛で飾られ、ラピスラズリの濃いブルーの瞳に影を落とす位長い。
高くスッと通った鼻筋に、高い鼻梁。意志の強そうなはっきりした形の良い唇は赤い薔薇の花弁のよう。
プロポーションときたら女神もかくやあらん、と言える程の見事なボン・キュ・ボンだ。うん。眼福。
「見れば見るほど跪いて、愛を請いたくなるのを抑えるのが大変だ」
皇帝グエンはそう言いながら熱いため息を吐くと、エスコートしている腕に添えられた彼女の美しい右手に自分の大きな右手を重ね、蕩けるよう眼差しで彼女を見つめる。
そしてそれに気が付いたシンシア王女は耳まで薔薇色に染まったのである。
「貴女が望むなら一生髪は切らなくてもいいぞ?」
熱を孕んだ瞳をよそに、明るく言い放つ皇帝陛下にたじろいでしまうシンシアである。
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廊下には要所毎に警備のための近衛が立っているのだが、ふるいつきたくなるような美女を大切そうにエスコートしながら歩いていく皇帝陛下に目が点になりつつも素知らぬ顔で警備を続けているが、皇族の身の回りの世話をする侍女や侍従、メイド達は頭を下げつつ眉根を寄せる。
今まで浮いた話しばかりが目立つ皇帝グエンではあるが、皇城の中に女性を連れてきたことは一度たりともないのである。
それが目も覚めるような美女を連れ回しながら人目も憚らず愛の言葉を囁いているのだ。
この噂は半時もしないうちに皇城中を駆け巡ったのであった。
『ご主人様に報告案件ですね』
隠蔽魔法で姿を隠したまま、2人の後ろをついて行く白猫メルヘンはそっと溜息をついた。
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