42話 恋の病
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星が瞬く夜。細い細い生まれたばかりの月が薄らと見える窓際に佇むシンシア王女。
昼間は帝国から持ち帰ってきた紡績に関する資料の整理や夜会に参加していた学識者達との会話を文書に起こしたり、魔石の成分の比較といった研究等で忙しくしているのだが、就寝前でぼんやりと過ごす時間となるとどうにも寂しくなる・・・
「あら? なんでかしら?」
思わず自分の気持ちに気が付き、自身の声で急に現実に引き戻される美女・・・
まあ、主が天然なんですね・・・はい。
真剣な目で
「必ず又会いに行く。それまで忘れずに待っていて欲しい」
そう言いながら見つめられた事を思い出し溜息を1つ付いた。
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シンシアは幼い頃から国内外の貴族や王族から求婚されて来た。一年くらい前は余りにも気まじめな性格が災いして気鬱になって、色々な人に迷惑をかけてしまった。その結果医官の勧めもあり『婚姻をしなければいけない』という思い込みから一旦離れて好きなことを始めたのだ。
それが魔石の再利用だった。
魔素の塊でもある魔石はキラキラと宝石のように輝き、様々な色を有してとても美しいものが多い。
魔石の使い道は主に魔力をストックする充電池のように使われるのが主なのだが、小さ過ぎるサイズや形を整えたときに出る屑等は処分される。
それを何かに使えないものかと試行錯誤して創り出したのが魔石を染料に加工して美しい布にするという方法だった。布は美しいドレスに加工されることになり、先ずは自分の弟である王太子の婚約者に贈られる事になった。
彼女はこの魔石のリサイクルを一生の研究課題にして生きていくことを決め、『国のための婚姻』という考え方からやっと自分を開放することが出来たのだ・・・
しかし、ここに来てトリステス帝国の皇帝陛下であるグエンに熱烈にプロポーズされてシンシア王女の気持ちが動いてしまった・・・
これに彼女自身も戸惑っているのが本当のところである。
『恋は堕ちるもの』
『理屈ではない』
『思考ではなく感情』
本にも沢山そう書いてあった。
「ああ。だけど、コレは何?」
生まれたての細い月を見て、グエン陛下が同じように夜空を見上げているのかも知れないと考えると居ても立っても居られない気持ちになる。会えないことに、距離があることに、声を聞くことが出来ない事に涙が出そうになる。
「おかしいわ。こんなの・・・」
偉大な詩人達が苦しい胸の内をその美しい言葉で紡いだ恋の詩集を読んだ時、首を捻った過去の自分が今更ながらに子供だったのだと又もや溜息を付く。自分の中には『婚姻』という選択肢はもう無いものだと安心しきっていた自分はなんと愚かだったのだろう。
初め会ったときに、唐突にプロポーズされて本気にしなかった自分。
一番最初に皇城の図書館へエスコートしてくれたこと。
紡績工場やアトリエに連れて行ってくれた事。
嬉しそうに顔を輝かせながら、シンシアの顔を覗き込むグエン。
その瞳は冬の曇り空のような灰色をしており、虹彩はサファイアブルーで。まるで冬そのものを瞳に全て閉じ込めたように輝き、屈託なく笑う少年のような笑顔。
ああ。今すぐ会えるものなら会いたいと願ってしまう、愚かな気持ち。
『婚姻』しなくても『恋』は唐突に降って湧くものだったのだ。
気がつくと自分の思考の隅、感情の真ん中に居座っている忌々しいほどの恋慕の情を持て余すシンシアであった・・・
「たったの1週間側に居ただけで、こんなにも会えなくなることが苦しいなんて。まるで・・・」
恋は病とは言うものの・・・
「本当にまるで病気だわ・・・」
1人また溜息を付いた・・・
完治する見込みは無さそうである。
ブクマ、感謝です(_ _)




