39話 後始末
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グエンは演習場にて鍛錬を続けるロザリアと指導を行うリンダを眺めていた。
「で、だ。ロザリアが黒の塔に忍び込んで、その後随分大人しいのがおかしいってか?」
「はい。イヤに大人しくて気持ち悪い位です。こちらの指示にキチンと従いますし」
指示にキチンと従うのがおかしいと言われるとは・・・ある意味、大物見習い騎士である。
離れた場所から家庭教師であり今や上官でもあるリンダにも粛々と従っているようにも見える。
「母親とは会話はしていません。それは確認済みですが、何しろ自分そっくりですから姿を見たら何かしら勘ぐるでしょう」
「まあ、言葉にしてくれんと気持なんぞ分からんからな」
「まあ、そうですね」
「放っとくしかあるまい。だが塔に近付くなという上官であるリンダの指示に従わなかったんだから、懲罰は受けさせろ。アイツはもう軍属として扱うんだろう?」
グエンが肩を竦めるとそれを見て頷くゲオルグ。
「それと、イングリット達2人の処遇に関しては隣国に任す」
「いいんですか?」
「既に帝国民ではないからな。勝手には裁けん。隣国に送り返すしかあるまい。両方の親族達もそれで異論はないという書状が届いてる、まあもう既に縁は切った親族を庇い立てした所で両家が更に皇族に借りができるだけだ」
「間諜はどうしますか? 結構な数ですがシャガル本国に報告前に全員が捕まったようです」
「情報は漏れてねえよ。直接シャガルに行って確認済みだ」
「はい」
「ハイドランジアの連中に感謝だな」
「ええ、本当に」
ゲオルグが溜息を付いた。
「シャガルは帝国とは友好的な条約を結んでいない」
「はい」
「どうせ沈む国だ。暫く勾留しとけ。その上でどうにもならん場合は始末しろ。バレたらどうなるか位分かってるのが間諜だ。魔族との争いが無くなって平和になったってのに、要らん手間かけさせやがる。まったくもって面倒臭い」
市政者の顔を保ったまま踵を返す皇帝陛下にゲオルグは黙って臣下の礼をした。
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皇帝の執務室で今回の後始末のための書類や隣国の王に送る書状を大臣たちと共に作成する中、鍛錬を終えたであろうロザリアがゲオルグに伴われて現れる。
「どうした? 何か用か?」
書類から顔を上げずに隣国の王に向けて魔法のペンを走らせる皇帝グエン。封蝋を押して人差し指で封書を触ると光りを残して消えたのでやっと顔を上げる。
「申し訳ありません、判断に迷った為連れてきました」
「ん~~」
眉を顰めて大臣達の顔を見回すと、全員が一礼をすると退出していく。
最後の宰相がドアを占めると親子3人が取り残された。
「で、どうした」
「ロザリアが黒の塔の囚人に関して質問があるそうです」
ゲオルグ第2皇子も顰めっ面になる。実にそっくりな父子である。
「どうしたロザリア?」
俯いていたロザリアは顔を上げると
「父様、あの囚人は誰ですか? 何故私にソックリなのですか? 隠し通路の漏洩はどういう事ですか? あれは直系ではない者が教えられる順路のみでした。あの方達は・・・」
机に頬杖をつくグエンを見るロザリアの顔は若干青い。
「そうだなあ。もう20歳だから知っといて良いだろう。アレはお前ら兄妹の母親だ。俺の元嫁って云やあ良いのか? 名前はイングリットだ」
「・・・・死んだのでは?」
「鬼籍に入れられてるだけで死んじゃいねえよ。誰も死んだとは教えてないはずだ」
「・・・はい。乳母には行方不明になって鬼籍に入ったと聞きました」
「そういうことだ」
「では、あの方が皇城の隠し通路を他国に教えたのですか?!」
「ま、そういうことだ。幸い本国に知られてはいなかったがな。シャガルに行って裏は取ってきてあるから大丈夫だ」
「・・・あの方は何故男性と一緒に独房に居るのですか」
「夫婦だからな。仲を裂くのも可愛そうだろ?」
「父様はそれで良いんですか!?」
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ロザリアは怒ったような、泣き出しそうな、なんとも言えない顔をして叫んだがグエンはそれを見ながら顔を更に顰めると
「しょうがねえだろ、俺とは付き合い切れんと言って出て行ったんだから」
嫌そうに答えた。
「まあ、政略結婚だったし、俺は10歳も年下だったから至らなかった点も多かっただろうからな仕方ねえだろうよ」
「父上・・・」
椅子に座り、軍靴を履いたままの長い脚を行儀悪く執務机の上に投げ出すと
「あの旦那は隣国の騎士だから判断は隣国の王に任す。ま、シャガルに嵌められて今回の騒ぎになったってだけだからな。出来得る限り情状酌量でって伝えてある。バレた通路は塞げばイイんだからな」
その言葉に驚いた顔で父親を見るゲオルグ。
「陛下、それで良いんですか?」
「あ? 喧嘩売って来たのはシャガルだろ。アイツらは巻き込まれただけだ。そんな連中迄罪に問うことはないさ。間諜共は別だがな」
ヘラリと笑う皇帝グエン。
「魔族との戦いが終わってるんだ、もう命のやり取りなんざ最小限でいいんじゃねーの? そもそもお前らの母親だ。好んで罰を与えたくはねえよ」
怒ったような顔の父親を見て。
ああこの人は。
血の繋がらない娘を自分の家族として受け入れたのも、戦うことで命を削ってきたからこそ。戦場に身を置いてきたからこそ、命を大事にしたい人だったな。
と思い出すゲオルグ。
半分わかったような、納得のいかないような困惑気味の妹を見つめて、
「もういいか? ロザリア」
そう問うと彼女は頷いた。
「おい、ゲオルグ」
「はっ?」
「黒の塔に無断侵入は2回だ。その分懲罰は加算だ」
既に書類に向いて顔を向けるグエンの言葉に、ゲオルグは笑顔で頷き、そしてロザリアは小声で
「バレてた・・・」
と呟いた。




