38話 奪還
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暗い夜。新月なので月がないのは当たり前なのだが若干雲も出ており、星さえ見えない夜だ。
ここシャガル王国には夜を照らす魔石灯は王城の王の居室近くか離宮にしか設置されていない為、闇に乗じて暗躍する者たちにとっては好都合な国の1つである。
黒ずくめの間諜達が音もなく王城の地下にある独房に忍び込み始める。見張りが気がついたときに昏睡させる為の見張りを立てると又大勢が地下へと音もなく散っていく。
独房の鉄格子越しに中を覗くと、殆どが空になっている。一番奥にある独房に影が1人音もなく忍び寄り中を確認する。
小さな机の上に燭台が置かれ小さな光を灯した魔石が置かれている。粗末なベッドに1人の男が項垂れた様子で座っているのが見えた。
南大陸で多い少し浅黒い肌に薄茶色の切り詰めた髪の毛。白い立ち襟のシャツに茶色のトラウザーズを履いており裸足である。
「おい、アンタ」
「?」
「アンタの嫁はイングリット・レジアであんた自身の名前はヘンリー・レジアか? まちがって無ければ頷け」
彼は躊躇いなく頷いた。
「履くものは無いのか」
もう一度頷く男
「入浴中に捕らえられた為靴がないんだ」
彼は小さな声で鉄格子に向かって答えた。
「よし。聞いた通りだな」
鉄格子のはまったドアの鍵穴でカチャカチャと音がするとあっという間にに開いて
「南に戻るぞ」
ドアの向こうの黒ずくめの男が青灰色の目を弓なりにして、ニヤリと笑った。
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男はスクロールを広げその中央に人差し指を当てる。中央に描かれた魔法陣が金色に光り始める。
「これにさっさと乗ってくれ。話は一度アンタの嫁と落ち合ってからだ」
「陛下、何故」
「あー、もー、ゴタゴタ言ってねえでさっさと跳べ。後がつっかえてるから長居はやべえんだよ」
「わかりました陛下」
「おいおい、コレだコレ」
黒装束の男は口に人差し指を当てるとウィンクをする。
ヘンリーは頷き、スクロールの魔法陣の上に乗ると一瞬光って姿が消えてしまう。
「あーあ。これ高えんだよなー。ま、アイツに請求すっか。自国の騎士だからな~ 迷惑料でふっかけてみるのもいいかもな~」
隣国の友人が嫌そうな表情をしながら、王冠を外して頭をガリガリと掻くのを思い浮かべるとヘラリと笑いながら部下たちに合図をする。
その場にいる黒ずくめの男達が片手を上げると、次々に全員が手を上げていく。
「撤収の合図全員に伝わりました」
「よっしゃ~ 全員帰るぞ。ザマアみろ」
王城のある方に向いてそう言うと、もう一度片手を上げる。
其れを合図に次々とその場からスクロールを使って消えていく、黒ずくめの男達。
最後の一人、グエンその人が消えた後は空っぽの独房に、小さな魔石灯の光を載せた燭台だけが残ったのである。
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隣国の騎士ヘンリーは眩しい魔法陣の光りが落ち着いたのに気が付いて、目を開けた。
濃い紫色の髪の毛を上品に纏めた青い瞳の愛妻が驚いた顔で真ん前に立っているのが目に映る。
「イングリット!」
「あなた!」
再開を喜び合うように2人はギュッと抱き合った。
「ここは一体どこだい?」
周りを見回すと、ホテルの客室のようにも見えないことはない。
ソファーにベット、ローテーブル。
魔石で灯りを灯すらランプが仄かに光っている。
「ここはトリステスの皇城内にある黒の塔よ」
「え、じゃあ独房かい?」
「ええ。隠し通路の案内をさせられたけど全員が強制的に独房に全員転移させられてしまっていたのよ。夜会当日に案内させられたんだけど夜会の主賓がハイドランジアの王女だったのよ。多分王女の周りの魔導師達に捕まったのだと思うわ」
「・・・運が良かった?」
「多分ね。隠し通路を教えてもシャガルの国王はヘンリーを返してくれるかどうか謎だったし」
「同じ捕まるのなら君と一緒が良いさ」
2人は笑い合う。
「でも陛下に又助けられたのがどうにも」
ヘンリーがソファーに座りながら溜息を吐く。
「わざわざシャガルの独房に陛下が来たんだ」
「ええ?」
「間違いない。頭巾で顔は見えなかったけど、目の色が陛下だった。俺達はまた陛下に迷惑をかけて、助けられたんだよ・・ もうどうしたら良いのか・・・」
頭を抱えて項垂れるヘンリーの横にイングリットは座ると、
「謝るしかないでしょうねえ」
そう言って夫と同じく溜息を吐いた。
独房の扉の小窓からこっそり覗く影があるのに2人は気付かなかった。
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「陛下! 間諜全員にスクロール使わせたんですか! 人を1人助けるのに、スクロール25人分って!」
財務大臣が激怒である。
「わりい! スピード勝負だったからな。まあ、ついでにシャガル国周辺の情報も色々集めてきたけどな。ちったあ売れるだろ」
額に青筋を立てる財務大臣をよそに、宰相が
「情報は良いものがありましたか?」
可愛く? 首を傾げる。
「んー、もうすぐあの国破産するかもなー。鉱山の産出量が落ちてただろ? あれな、もう枯渇してるわ。在庫を輸出してるから、周りにわかんねえだけだな。見栄っ張りが災いしたな。あと穴を掘りまくってるから災害が起こるかもなあ。あ、それと国王がシンシア王女だけじゃなくて、聖女殿にも釣書送ってるらしい。救いようのない馬鹿だな、ありゃあ。聖王にコレされるんじゃねえ?」
首の前で親指を立てて、横に切って舌を出す。
「首チョンパですかな」
「ああ。あーの聖王の執着具合だとヤると思うぞ」
ヘラリと笑うグエン。
「ま、あの国はどっちにせよもう悪いことんなんざ出来んだろ。アチコチ陥没災害にあって国力が削がれるだろうよ」
「先に動きますかなぁ」
「我が国の外交官や商売人を引き上げさせるのが先だな。幸いあの国には商売してる連中以外には行ってねえからな」
「陛下」
「何だ?」
「なんにもしてないでしょうな?」
「してねーよ」
ニヤっと笑うグエン。
「今回は見逃してやる。ウチに喧嘩ふっかけてきたことを後悔させてやろうと思ってたが、するほどのこともなさそうだ。沈んでく船に追い撃ちかける事も無いだろう?」
肩を竦めながら
「知らんふりしてるだけでいいさ」
そう言って笑った。
執筆担当者も知らない・・・・謎。
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