31話 奴隷紋(下)
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クレメンティーンとは、シンシアの祖母にあたる女性だ。
シンシアの黒髪や風貌はは祖母によく似ていると言われている。広間に飾られている肖像画も確かに似ていると自分でも思うのだが・・・
「クレメンティーン様は、私の祖母ですが、よく似ていると言われていますわ」
「では、ハイドランジアの王女様?」
続けて彼はシンシアに問う。
「ええ。そうですわね」
彼は床に突っ伏して、『ありがとうございます』と、何度も掠れた声で呟いた。
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程なく、彼の連れの額にも同様にあった奴隷紋はシンシアが右手を当てるだけで消えてしまった。
勿論奴隷紋だけでなく、火傷の跡も無くなった。
残りの2人は青年の父と弟であった。
「では、あなた方の祖父母がハイドランジアの国民だったのですね?」
「はい。私が幼い時に一家揃って拐われたと聞いています」
父親が泣きながら答えた。
「私の妻もハイドランジアから連れ去られた奴隷でした。シャガルでは、魔力を強くするために同郷の奴隷同士を番わすのです。妻は息子が産まれた後、肥立ちが悪く亡くなりました」
そう言いながら、床に目を落とす親子3人。
「どうして私を御祖母様だと思ったのかしら?」
父親が、服の内側から古ぼけたロケットペンダントを取りだし、開けるとそこにはシンシアによく似た黒髪の女性の小さな肖像画。
「祖父母が、この方がいつか必ず助けてくれると、これを死ぬ前に私に託しました」
ロケットの蓋にはクレメンティーン・リゼ・ハイドランジアと刻印がある。
「私達一家がハイドランジア王国の民であった事を忘れないようにと、此れを見せられ、ずっと祖父母に言い聞かされてきました。いつか必ず祖国に帰るのだ、と」
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「そうだったのですね。シャガル王国は今や世界で唯一奴隷制度のある国なのです。どうあっても奴隷を引き渡すつもりはないとずっと国際法廷の勧告を無視し続けています。我々もハイドランジアの王国民を奴隷として有しているのなら返すようにと書状を送り続けていますが、ハイドランジア王国の民はシャガル国内には存在しないという返事しか戻ってこないのですわ」
悲しげな顔になるシンシア王女。
「シャガルは今の国王になってから先程の我々のように、魔法使いの奴隷の額に呪い付きの紋章を刻むようになり、喋る事も考える事も出来ないようになりました。ですので、奴隷同士で意思疎通がほぼできない為、ハイドランジアから拐われた者の子孫がいるかどうかは残念ながら分かりません」
父親は悔しそうな顔で頭を横に振った。
「多分ですが数が減ってきて逃さないようにするために、あの奴隷紋にしたのだと思います」
弟の方の青年が落ち着きなく辺りを見廻す。
「父さん、ここに居たらシャガルの間諜の奴らが来るんじゃないかな?」
「ああ。だが彼奴等は俺達が正気じゃないと思ってるから夜中迄は来ないだろうよ。この小屋自体は結界を張ってあるから誰も来れないが、私達も同じように彼奴等の張った結界で出て行けないんだよ」
シンシアはそれを聞いて、溜息を付きながら。
「又、あの国王ですか・・・」
と眉根を寄せて、聞こえないくらいに小さく舌打ちをした。




