30話 奴隷紋(上)
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彼ら3人は、一定の距離をシンシアから保った状態で離れたまま、彼女の質問に段々と反応するようになってきた。
最初はあまり反応がなかったのだが、どういう事なのだろう? と最初は不思議だったのだが、ああ自分は光属性の魔力があったんだわ、と思い出した。
光属性の魔力は何らかの状態異常を正常に戻すという特質を持っている。
其れは、魔力であって魔法ではないが、側にいる者は光属性の魔力の持ち主の側にいるだけで影響を受けやすくなる。
多分彼ら3人は強い暗示のようなものに掛かっていたのでは無いだろうかとシンシア王女は思いついた。
「あなた方は、私をどうするつもりですの?」
その問いかけに3人は首を横に振る。どうやら彼ら自身は彼女に何もする気が無さそうである。
安心して良いのかどうかは別として、少しだけ肩の強張りがましになった気がしたシンシア王女である。
暫く、お互いにどうして良いのかが分からなかったのか、黙ったまま突っ立っていた3人がソワソワし始めたのに気がついた。
「どうなさったの?」
シンシアの声に3人がビクッとしたと思うと、跪いてしまった。
「急にどうなさったの?」
一人がおもむろに顔を隠していたフードを脱ぎ去り顔が見えるようになった。
平民によくありがちな茶色の髪に、茶色の瞳。顔は綺麗な男性だが、彼の額には特徴的な形の紋章、所謂奴隷紋と言われるやつが刻まれていた・・・
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「貴方、その額のソレは、奴隷の紋章ではありませんか!?」
驚くシンシア。
其れはそうだろう。
聖王が世界を平和に導いたとされる頃から少しずつ奴隷を廃する国が増え、今では奴隷を所持する事のほうが稀である。
国際法廷で奴隷を撤廃する事としてもう何十年も前に法律で定められたのだ。
どの国もコレに賛同し従った。
奴隷に貶められていた人々は、ほぼ故国に戻され手厚く保護されることになった。
ハイドランジア王国自体は元々奴隷制度のない国だったので、返す者は全く居なかったのだが、拐われていた自国民が戻されてきて、急に国民が増えたのに頭を抱えたことがある。
それも随分前のことで、シンシア自身は奴隷紋を直接見たことはない。
奴隷紋はその持ち主が、自分の所有物として奴隷に印を付けるだけのものではなく、一種の呪いのようなものであり、命令に従う人形のようにされるモノが一番質が悪いとされている。
彼に施された奴隷紋はその良くないと言われる奴隷紋そのものであった。
実物をみたのは流石のシンシアも初めてではあれども、その豊富な知識の棚の中にその文様と悪質さはキチンと整理され存在していた。
「何という、酷いことを。焼印ではありませんか・・・」
普通は特殊なインクを使った入墨で施すものだが、彼の額には焼鏝らしきもので与えられ、ケロイドになった後の皮膚が引攣れるように皺になっている。
「さぞや痛かったでしょうに」
シンシアの濃紺の瞳に涙と小さな星が浮かんだ。
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跪き項垂れる青年達の前に優雅にそしてゆっくりやって来ると、シンシア王女は彼の前にしゃがみ込む。
そして、なんの躊躇も衒いも無く彼の額にその右手を当てて、
「あなた方は、一体何処の誰に此のような酷い目に合されたのでしょうか」
そう問いかける。
触れられた青年が突然の事にビクリと肩を震わせたのだが、その瞬間、触れた場所に金色の光が灯ったように見えた。
シンシアは首を傾げて
「何かしら?」
と、手を離す。
眼の前に跪いている青年の額の奴隷紋と火傷の跡がきれいに無くなっている・・・
「あら? どういうことかしら」
更にコテンと首を傾げる。
自慢ではないが、こと魔法に関してはシンシア王女は非常にへっぽこである。
魔力量は王族なのでもちろん多いが、魔法操作が壊滅的に下手くそである。
いや、これまで下手であった、と言い直した方が良いのかもしれない。
シンシアの手の中に灯った光は、確実に魔法の輝きであり、しかもハイドランジア王家の一族に現れやすい神聖魔法の金色の光だったからだ。
「あら? ひょっとしたら神聖魔法かしら? 私が? まさかねえ」
そう言いながら自分の右手をグーパーする。
眼の前の青年も急に呪い付きの奴隷紋から開放されたせいか、首を傾げている。
「ねえ、貴方、額の奴隷紋が消えてしまいましたわ。火傷の跡も消えましたわ」
自分が、消した実感が全く無いためどうも現実味が無いシンシア王女。
「あ、ありがとう御座います・・・? 王妃様?」
青年が掠れたような声でシンシアに御礼を言う。
「王妃様?」
更に訳が分からないシンシア。
「貴方様は、ハイドランジア王国の王妃、クレメンティーン様でしょう?」
彼はおずおずとシンシアにそう言った。
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