21話 明るい朝に
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明るい日差しが寝室に差し込んでくる。
「陛下お目覚めですかな?」
夜会の翌日など遅くまで寝ていても誰も文句は言わないものだ。寧ろ公務そのものも始業が午後からになったりするのが通例である。
なのでこのような早朝から宰相が皇帝陛下の私室に足を運ぶことは異例であるのだが、彼がドア前から声を掛けると当然のようににドアが開いた。
「おう、どうした。起きてるぞ」
黒い略式の軍服を着た皇帝グエンは誰よりも早く目が覚めている。
実は眠っていないのではないかという噂さえある。
「実は昨晩の間者達の中にイングリット様が居られまして」
「はぁ?! 何だって?」
「現在は黒の塔の5階にお連れしております・・・ どうなさいますか?」
イングリットは元皇妃、つまりグエンの元嫁で皇子皇女の生母である。
「イングリットの実家はどうなっている?」
「知らせてはおりません。陛下の判断を仰いでからでないと。ましてやイングリット様は帝国では鬼籍になっており、他国の国民の扱いですので・・・」
宰相も何時もの人の良さそうな笑顔が消え眉を顰めている。
「・・・分かった。ゲオルグを呼べ」
何時もは飄々とした様子の皇帝陛下が、異名通りの険しい顔になった。
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「こちらの衣装はいかがでしょうか?」
今朝もシンシアの侍女が視察のために用意した、商家のお嬢様風のワンピースを鏡の前でシンシアに当てて見せる。
ペールブルーの優しげなワンピースドレスに赤いボウタイのシンプルなAラインのワンピースである。
「それでいいわ。今日は昨日の夜会でお会いした方々との会話内容を書き写す作業にするから。陛下も今日は夜会の翌日だから午後からお付き合い下さると仰っていたから・・・」
背中の釦を止める侍女に向かって話すシンシアの背後でソファーに座ったまま首を傾げる聖女ミリア。今日は神官の通常服である白いキャソックを着ている。
「シンシア様、求婚のお返事どうなさるんですか?」
「ん~~。あれね。国同士の協議が必要になる事だから、今は保留だわね。簡単じゃないわね・・・」
「て、事は、婚姻を結んでも良いとお考えになってるってことですか?」
「・・・嫌では無いわね」
そう返事をするシンシアを何も言わずに侍女が一瞬動きを止めているのに気がつくミリア。
『・・・耳が赤い・・・』
シンシアの耳元が薔薇色に染まっていた。
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「で、何で今更トリステスに戻ってきた?」
そう冷たく言い放つ皇帝グエンと、そのやり取りを冷めた目で見ているゲオルグ第2皇子。
ここは黒の塔の5階、所謂貴族階級向けの罪人向けの独房である。
「・・・・・」
押し黙っている女性は妹によく似た濃い紫色の髪を夜会巻きに結い上げ、目を伏せたまま俯き猫脚の優雅なソファーに姿勢良く座っている。
貴婦人が夜会で好むタイプの天鵞絨仕立ての濃い緑色のドレスを着ており、白い真珠のネックレスを3重に巻き上品に纏めてある。
中肉中背でスタイルは年齢から考えるとかなりイイのではないかとゲオルグは思う。
しかし、実のところ母親と言われてもピンとこないのが本音である。
20年前に出奔したまま隣国で暮らしていると成人したときに教えられていた為、動揺は一切ない。混乱を避ける為に鬼籍とされ、実家とも縁を切っているというのも知っている。そして男と逃げたということも。
彼にとっても父親である皇帝の言う通り何故今更である。
「陛下。発言を宜しいですか」
「うん? ああいいぞ。何だ?」
「この女性には連れ合いが居られたはずです。何故この国に1人でおいでになったのでしょうか」
ゲオルグは首を捻る。その言葉にハッとして顔を上げるイングリット。
「トリステスにはもうイングリット・トリステスという女性は存在しません。この者は他国の間者である可能性が強いでしょう。目的がハイドランジアの王女であったのか、トリステスの皇族であったのかはもはや不問で良いのではないでしょうか」
皇帝グエンによく似た冬色の目を細くするゲオルグである。
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「まーな確かにそうなるな。招待客でもないのに夜会に紛れ込んでたんだ。その時点でもう処罰対象だからな。間諜なんざ掴まった時点で大抵は処刑ってのが相場だ」
面倒くさそうに頭をボリボリと掻く皇帝グエンの言葉に顔色を一層悪くするイングリット。
「理由はどうあれ処罰対象である事は明らかです。ましてや他国の平民をこの場所に留めるのは良くありません。ここは貴族の刑罰のための部屋です。平民は1階へ。其れが決まりですので」
「お前それでイイのか?」
「陛下?」
「一応おめえらの母親だ。だからお前に処分は任すぞ。今の軍はお前の管轄だしな」
「・・・了解しました」
ドアの外に立っている兵士を呼び込み指示を飛ばすゲオルグ。
「問題は、どうやって皇城に入ることが出来たのかということです」
「ああ、そりゃあ分かってっからいいよ」
「は?」
「多方、皇妃専用の隠し通路を使って潜り込んできたんだろう。他に方法はない。夜会当日の前々日から出入りの業者は一切止めてあったし、大臣達すら城の中に詰めてた。貴族達は入場の際にチェックは厳重にされる。もし何処かの貴族家の手引きならダンスカードくらい持たされるはずだ。バレたら一巻の終わりだからな。皇妃用の隠し通路は完全閉鎖だ。今すぐ作業に入れ」
「はっ」
立ち上がり黒いマントを翻して部屋を出る皇帝陛下。
「後は、任せる」
頭を下げるゲオルグと顔を青くする元妻に向かい、そう一言だけ残して。
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