18話 夜会の始まり
夜会の始まる直前に現れたのは、トリステスの第2皇子ゲオルグ・トリステスである。
「ロザリア、貴様・・・」
皇帝陛下をまんま若くしたらこんな感じ! の23歳独身様。婚約者なしの優良株である・・・()
「うえっ、お兄様何で・・・」
黒いダブル仕立ての軍服の肩のシルバーの肩章が見事に乱れており、息を切らしているところを見ると廊下を走ってここにやって来たのであろう・・・
「待てど暮らせど演習場に帰って来ないと思えば。夜間訓練の練習の時間は明日から3倍だと思っとけ!」
薄いクリーム色のプリンセスラインのドレスの胸の前で両手を組んで、お願いのポーズをするロザリア皇女。
「そんな、お兄様。酷い!」
「お前のほうが酷いわ! 俺を塹壕に蹴り込んどいて梯子を探しに行ったきり帰ってこねえってどういう了見だよっ!」
「「「「・・・・・」」」」
「だって夜会に出席したかったんですものっ!」
「だからって、俺を落とすなっ!」
中々の兄妹愛のようである・・・
✣
ホールへの入場は通例なら身分の低い順から会場入りをするため、トリステス帝国では皇族が最後となる。
現在皇太子は皇太子妃と共に世界一周旅行中なので、欠席。なので皇族の先鋒はゲオルグ第2皇子とロザリア皇女、次に最高位となる皇帝陛下だ。この時にハイドランジアの王女であるシンシアは共に入場となる。
警護である騎士と魔導師は招待客ではないため、シンシアの入場の手前に会場のドアの横で待機である。
全員が会場入りした後でシンシア王女の後ろに影のように侍る手筈となっている。
「凄い! SPゴッコですね!」
其れを説明された時に目をキラキラさせて見上げてくるミリアをミゲルが思わず、ぎゅむっとしたくなったのはナイショだ・・・
そしてその後ろに隠蔽魔法で姿の見えないメルがこの2人に後ろで控えているのはもはや説明するに及ばずである。
入場直前でハイドランジアの護衛役の2人は眼鏡の魔道具を懐から取り出して装着する。
「惜しい、コレが黒いサングラスなら・・・」
とブツクサ呟くミリアに
「格好がそもそもSPじゃない。諦めろ」
と騎士姿のミゲルが言ったのは余談である。
✣
夜会の会場はキラキラとシャンデリアが輝き、まるで御伽の中の1ページのようである。
ただ、ハイドランジアの王女であるシンシアの周りには一定数の人集りが出来ており、気が抜けない。招待客はこの国の上位貴族ばかりなので無作法なものは居ない(筈)なので、左程気が詰まるような警戒は必要ないと言われている。
だが、当のシンシア王女本人が社交はまだしも壊滅的な運動音痴であるためどちらかろ言うとそっち方面で気を使う。
常に彼女と皇帝陛下の真後ろに侍り、王女殿下の足運びの先にひたすら神経を尖らすのである。
「兎に角、グエン陛下にくっついて腕を離すんじゃない」
と、ミゲルに厳命されているためシンシアも陛下から離れないし、グエンの方も周りと笑談しつつも腕から彼女の手を離させるつもりがないようで護衛としては有り難い限りであるのだが・・・
「これ、後で本国から文句を言われそうじゃないですかね?」
魔導師のローブを羽織ったミリアが眉根を寄せる。
「どう見たってイチャイチャしてるようにしか見えんからな・・・」
騎士の格好のミゲルも眉根を寄せるが
「ま、今更気にした所で遅いだろ」
肩を竦める。
「お似合いですけどねえ・・・」
ミリアがポソっと呟いた。
✣
「せっかく夜会嫌いの陛下が現れたというのに、あんな邪魔者が現れるとは・・・」
そう言いながらホールの片隅に陣取る独身女性の小集団。
どんなご時世でもどんな立場であっても権力に擦り寄る者は往々にして一定数存在するものだが、魔族との戦いで若い男性不足が長く続いた帝国は年の差婚など当たり前であり、自ら望んで権力者の後妻として嫁ぐのを望む者も数多く居るのである。
帝国に殆どいないが、トリステスで一番身分が高い独身男性であり南大陸を平和に導いたグエンは、『トリステスの鷹』という異名を持つ英雄だ。年齢こそ40を過ぎているが見た目年齢は30代前半である。
性格は豪胆で無頓着。そして女好きと噂されているにも関わらず、いや、それだからこそ陥落させるには容易いと思われがちだが以外にも身持ちは固く、どんな噂が飛び交っていても彼が皇城の中にまで女性を招いたことはなかった。
其れが今回ハイドランジアの王女をまるで恋人のように国中を連れ回し皇城にも連れて来たというではないか。
これなら付け入る先もあろうと画策する貴族女性は以外にも多かったのである。
✣
息子達は奔放という噂のある父親のお陰で縁談が少ないと考えていたようであるが、貴族女性たちにとっての最優良物件は実のところ20年皇妃の席が空いたままの皇帝陛下グエン・トリステス自身なのである。
もっとも本人の視線は腕に絡まる白い手の持ち主、シンシア以外に向けられることは無く周りを全無視であるのだが・・・
恋する男、晴天である。
ハイドランジアの傾国の美女、貴重な光属性の継承の血筋も手伝ってなのか独身の貴族男性から熱い視線を送られてはいるが全く気が付かず、特別招待枠の学識者達と意見交換を活発に励むシンシア王女。
ダンスよりも本。社交よりも学術論議。
美しい見かけに関わらず一切華やかなことに頓着しない美女の周りは、学者達が詰め掛けており、下心を持ってすり寄るつもりだった貴族達は呆気に取られているようである。
それを実に楽しそうに眺める皇帝グエン陛下。
益々噂が広がりそうな予感の夜が更けていく。
今日もお読み頂きありがとうございます(人*´∀`)。*゜+




