13話 グエンとロザリア
イケオジの回想最終ですー!
城に戻った時、既に皇妃は皇城からいなくなっており、自分には全く似た所がない赤児を乳母が抱え、大臣達も一緒になって途方に暮れていた。
3年の間に培った情報力で下位貴族の三男の騎士と共に隣国に隠れ住んでいた皇妃の行方を突き止めたのもグエンである。
聞けば皇妃と幼馴染だった男で、彼女を慕い皇城の護衛騎士にまで登りつめたのだという。
皇帝が戦いと放蕩(?)に明け暮れ、皇妃を全くもって省みないのを憐れみ関係を持ったのだと言う。
皇帝グエンはその言い訳を聴いた後、長い長い溜息をついた。
確かに良い夫ではなかっただろう。
しかし彼が死にもの狂いで戦い、トラウマになる迄疲れ果てても労いの言葉さえなく、夜会だ茶会だと出掛けていく彼女は自分よりドレスや宝石が好きな女なのだろうと思っていたので、贅沢三昧に文句は言わず好きにさせていた。
自分を好いて結婚したのではない事は重々承知していたし、貴族の娘として生まれた以上選択権は無かったのだろうと思っていたからである。
裏切られた、という思いより自分も皇妃も唯の種馬でありトリステス帝国という重い荷物を背負わされるだけの輓馬のような人生なのだなと思い知らされたような気がして嗤った。
娘は要らぬのかと聞くと2人共が手元には置きたくないという。
他国の皇帝を裏切った元皇妃と間男と噂されたら娘が可哀想だと言うのである。
バカバカしくなったグエンはその国の騎士団ヘの推薦状を2人に投げつけて帝国に戻った。
その国の国王と直談判をし、妻を連れて逃げた男を騎士として雇い入れて貰い、元皇妃は死んだものとして隣国で戸籍を作りその男と所帯を持たせるように手配していたのである。
それは生まれたばかりの赤ん坊の為でもあったのだが、彼らが娘を望まなかったという事実がグエンを何故か虚しくさせた。
だが何故虚しいと感じるのかは理解出来ないままであったが・・・
彼の生き方は自分の気持ちや感情を省みることなく、走り続けていたからこそ成り立っていたからである。
そんなわけで。
鳥の托卵先が如くの扱いをされた皇帝ではあったが、幼子には罪はない。
母無し子になってしまったロザリアをグエンは無下にする事無く、自分の子として育てることに決めた。
当然事情を知る大臣達や部下には止められたが。
✣
小さな命を大切に育てることがどれだけ大変なことであっても、戦場に赴けば命など容易く失われてしまう。
せめて手元に残った小さな命を慈しみ育てることが、ロザリアに対しても自分が省みなかった皇妃に対しても償いになるかもしれないと思ったのである。
ある意味彼は誰よりもロマンチストだっただけなのかもしれないが。
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ロザリアを少々甘やかしすぎたと気が付き頭を抱えたのが彼女が12歳、グエンが35歳の頃である。
その頃は南大陸中の国に結界石が行き渡り、魔族との戦いも無くなり『平和』とも言えるようになっていた。
親善大使の一行の一員としてハイドランジア王国の王弟が遊学と称しトリステスを訪れた時だった。
彼は、ロザリアと同じ歳と聞いていた。
平和が続く北大陸、しかも魔法王国の王族だ。
さぞかし我儘なヤンチャ坊主なのだろうと思いタカを括っていたのだが、色んな意味で期待は裏切られる。
知的な会話、優雅で洗練された所作、鍛錬を重ねたであろう、子供ながら鍛えられた体つき。
大の男を吹き飛ばす程の剣技。
グエンもこれには唸らずには居られなかった。
✣
聞けばハイドランジアの王族は12歳で大人と引けを取らぬほど政務を熟すように鍛えられるのだという。
彼自身は先代王の末子で両親はとうの昔に鬼籍に入り、兄である現国王夫妻に育てられたという。
比べて自分の娘はどうだろう? 母が居ぬのを理由に甘やかしすぎたきらいはあったが、侍従や侍女、家庭教師に至るまで、周りのものを次々と勝手にクビにするよう騒ぎ立て大臣達を困らせて、マナーも、ダンスも中途半端。
とても同じ歳とは思えない。
よく考えれば、彼だけではなく彼の国の外交官の娘もロザリアより4歳年下だが、ずっとしっかりしているような・・・
彼自身が身の回りの貴族女性など元皇妃位しか知らない為、娘の素振りや気性が普通だろうと思っていた自分に呆然とした。
思い返せば悪妻だったのかもしれぬと考えてそっと宰相に聞いてみると『残念ながら』と前置き付きで間違いなく悪妻であったと太鼓判を押されてしまう。
誰だあんなのを俺の妻にしやがったのは? 責任者出てこいっ!! である。
しかし元悪妻にそっくりに育ったかもしれないが、まだまだ12歳だ。
何とか矯正して普通の淑女と呼ばれる生き物? へと変更は可能な筈だ。
そう思い直すと国中に使いを出しあらゆる教師陣を彼女に付けた。が、すべて無駄に終わる事になる。
優秀な講師陣を集めてもロザリアの癇癪に恐れをなして、辞めてしまうか彼女自身が追い出してしまうのである。
✣
挙げ句の果てにハイドランジアの王弟を婚約者に望むなどという世迷い言を言い出す始末のロザリア姫。
流石に其れだけは絶望的に無理だろうなと頭を抱えたのは遠い昔の出来事だ。
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ロザリアのたっての願いということでハイドランジアの王弟殿下との婚約の打診を一応してはみた。
宰相も外務大臣もいい顔はしなかったが。
そして残念ながら、というより当然の事ながら、ハイドランジア王国からは打診の翌々日にはお断りの返事が返ってきた。
帝国での1週間の滞在中に纏わりつくようにされて、ミゲル王弟殿下がずっと困惑気味であった事を誰もが気づいていた為、さもありなんとロザリア以外は納得した。
しかし娘の執着心は並大抵ではなかったらしく、何度も何度も王弟殿下にアプローチし続けていた。
結局の所、的外れだったり相手の気持ちを全く無視した行為が続き、最後には国際問題にまで発展。
最終的に両国で話し合いの元、ロザリアが故意に半径1キロ以内に近づいた場合は賠償金を支払うという協定が結ばれた。
だが、ロザリア自身がそれすら守る意志を見せなかったせいでハイドランジア王国はロザリア・トリステス皇女の入国自体を一切拒否する事を明らかにした。
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