10話 視察という名の・・・
メルヘン、ホントはおっきいのよーん♪
翌朝、朝早くからベッドの上から転がり落ちそうになるシンシア王女をダッシュで支える侍女の動きに感動するミリアを他所に、工房へ出掛ける支度をするシンシア王女。
一見すると商家のお嬢様風。
白いふわりとした柔らかいブラウスにネイビーブルーのミモレ丈のマーメイドラインのスカート、淡いクリーム色のカーディガンに編み上げブーツという簡素な出で立ちではあるが、やはり突出する美貌は隠せないらしく大きな鍔のある白い帽子を深めに被り目元迄影が落ちるように侍女が工夫した。
「それでは参りましょうか」
そう言いながら、優雅な動きで立ち上がる。
「離宮の出口に馬車を回して頂いているのよ」
「そうか、じゃあ馬車にはミリーが乗れ。メルに乗って俺は外だな」
「はい」
返事をすると同時にメルは本来のサイズ、2メートル位の巨大猫の姿に戻る。背中には50センチ位の長さの白い鳩のような羽根が生えている。
「え! メルに乗るの代わってください!」
至福のモフモフに跨がれるなんてご褒美でしょう! の目になる聖女様・・・
「基本的にお前が護衛を志願したんだから、オ・マ・エが馬車!」
「ううぅ・・・」
流石に許してくれないミゲルであった。
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2人と1匹がそれぞれ姿を消し、シンシアと共に馬車の待つ出口に向かうと、2頭立ての黒塗りのシンプルな箱馬車が待っていた。
その前で待機しているのは勿論この国の皇帝陛下である。
こちらも商人のように見える工夫なのか、茶色いジャケットにシンプルな白いワイシャツ、ボウタイにベージュのトラウザースとショートブーツという簡素な姿である。
浅黒い肌に馴染むチョコレートブラウンの髪はきっちり撫でつけてあり、特徴的な目を隠すためか薄っすら水色の硝子のはまった伊達眼鏡を掛けている。
「おはよう御座います陛下」
「おはよう王女殿下。今日も俺の女神は美しいな」
「あら。ありがとうございます」
白い歯を見せて子供のようにニカッと笑う陛下は、シンシアの手を取ると手の甲にキスを落とす。
「「・・・・・(汗)」」
護衛役の2人は朝から殺し文句を言い放つ陛下にたじろいだが、姿は周りには全く見えないので誰も気が付かない。
シンシア付きの侍女は全く表情を変えることなく、丁寧にお辞儀をして主人を送り出した。
第3者視点に稀にでもなれるということは学ぶ機会である。
『ミリーに対して、もうちょっと強引でもいいかな?』
とか、腹の内で作戦を練っているミゲルは学びを活かすことに大変熱心な生徒であるだろうと思われる・・・
学びを実行される方はたまったもんじゃないという場合もあるかも知れないが。
まあお互い幸せならヨシ! である。
ちなみにメルは神殿の主達が毎朝飽きずに同じ様な事をやっているのに慣れっこなので、人族の求愛行動なんてこんなもんだろうと気にも留めずに欠伸をするのであった・・
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シンシア達一行が最初訪れた工房は個人の経営する小さな紡績のアトリエであった。
小規模ではあるのだが、帝国の特産である蚕から採れる絹織物を扱っていて、世界中に需要があると言われている有名な老舗である。
その店主や作業をしている職人たちに矢継早に質問し、メモを目にも止まらぬ速さで書き込んでいくシンシア王女は普段のおっとりとした優雅さを微塵も感じさせない。
徹底的に質問の答えに更なる追求を重ねるシンシア王女は、まるで新聞記者か学者、見方を変えれば厳しい尋問官のようでもある。
そんな彼女の姿にも頬を緩め、温かな眼差しを向けるグエンに首を傾げるのは見えない護衛である2人である。
『『見た目に惚れた訳では無いということ?』』
残念なことに、プロポーズされるのに慣れすぎてしまっているシンシア王女は皇帝陛下の熱い瞳には気が付かない。
あな恐ろしやは天然王女である・・・・
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ハイドランジア王家の血族は光属性の魔力が代々続いており途切れたことがない。
それ故にその血筋を取り込んだ家系は聖属性の魔法が使えるようになる事が確認されており、ハイドランジア王家に生まれた姫は幼い頃から世界中の王族に求婚されるのが常であった。
その弊害で恋愛や結婚に対する感覚が紛れもなく麻痺してると見られる者たちが一定数存在しており、シンシア王女も例外なくその1人である。
彼女は、自分自身にそれ以外の付加価値がないと思いこんでいるフシが元々あったため婚活ノイローゼで鬱になり王家を利用しようとする貴族達の手の者に薬を盛られて自我のコントロールが出来なくなり、遂には罪のない貴族令息と聖女見習いのミリアンヌを害しようとして王家の醜聞を撒き散らす1歩手前の事件を起こしたという経緯がある。
勿論極秘事項として内々で処理されて外部には一切知られてはいないのだが。
事件後、益々頑なに婚姻を拒むシンシア王女が爆誕し、一生を廃棄魔石の再利用で国を豊かにするのが自分の使命であり償罪であると彼女は考えており、今回のトリステス帝国への留学もその一環であって、彼女にとっては学問以外は不必要な行事であろう。
しかしトリステス側にはそれは知らされていないし、理解も出来ないことだろう。
だからこその夜会である。
この世界の王族や貴族達は婚姻を結び血族を残すことが当たり前であり、前世の記憶のあるネイサンやミゲルといった聖王達や、聖女ミリアには一種の呪いのようにも思えてしまうのだが・・・
ハイデンベルグ皇城での夜会はあと4日後である。
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