第9話 お前の力が要るんだ
母アイリが毎日作ってくれる弁当を食べながら、ハルは賑やかなアンカーレストの港を見るのを昼休みのルーチンとし、それをとても気に入っていた。この日も穏やかな波が日にキラキラと光り、その上を海鳥が思い思いに飛び交っている。ハルが小さい頃から慣れ親しんだ港町の、心に染み込む自慢の光景だ。
「そろそろ親方のところに行かなきゃ。俺に何の話があるんだろうな?」
きれいに食べ終わった弁当箱を仕舞うと、ハルは朝の申し付けに従い、バイロンとシリルが待つ親方の部屋へ向かった。
「やあ。そろそろ来ると思っていたよ」
ノック後、ドアノブに手をかけて入ると、この交易都市の要人とも言える二人の親父が、談笑しながら待っていた。和やかな様子から、バイロンとシリルの間の相談は、もう既に終わっているように見える。
「弁当を食べてました。それで、俺にしたい話ってなんですか?」
単刀直入に本題に入るハルの言葉を聞き、二人の親父たちの顔は和やかなままながら、アンカーレストを支えてきた二人の男として一筋の緊張感を入れ直し、彼に話を始める。
「そうだな、ここから話すか。ハル、お前の魔法は、町でも大したものだ。このドックで色々な人を見てきた目でそう思える」
「ありがとうございます。でも、この間の悪魔の戦士をやっつけたことを言っているんなら、あれは俺の力じゃ……いや、俺だけの力じゃないです」
「うん、それだよ。私も魔物を斬りながら見た。美しい女性が突然現れ、ハル君を助けたね? あの力を見る限り、戦いの女神としか言いようがない」
戦いの女神。ハルの心の深層に内在する守護神は、確かに他者から見てもそう形容するしかないだろう。ハル自身も、戦女神の自分を守る力をいつも感じており、それだけに神妙な表情になっている。
「防衛戦でお前と戦女神が見せた、とてつもない魔法力を期待するわけじゃないんだが、ハル、お前に頼みたいことがある」
「俺が役に立てることなら。言ってみて下さい」
「うん、いいだろう。防衛戦で現れた魔物の大群がどこで現れたか、シリルの自警団の協力ではっきりわかった。町の南に古代遺跡があるよな? もともと魔物の巣になりやすい場所だったが、そこからあれだけの数が来たということで間違いない」
そこまでの深さの話をしてくれれば、後のことはハルにも掴めた。バイロンは、魔物の巣の制圧と古代遺跡の調査へ、ハルに向かって欲しいのだ。ここまで自分の父に、彼は自身の力を頼まれたことはなく、誇らしさを胸にいだき、自負心を持って参加することを誓った。