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追憶の転生  作者: チャラン
エピローグ
83/85

最終話 あの日言えなかった言葉

 大は小を兼ねるというが、その成し遂げた事柄の大小は、それぞれの人の感じ方によるだろう。ハルはテラに平和をもたらしたが、やらなければいけない事は、これから幾らでもある。


「おい! ボケッとすんなよ! こっちに持ってこい!」

「はい! いまもってきます!」


 旅で仕事をサボっていたハルを、一人前に鍛え直すため、バイロンは躍起になっていた。このバカ息子は、仕事の勘所を忘れているので、まずそこからになる。


(それにしても嬉しいことを言ってくれたな、こいつは)


 ハルには見せないが、父親であるバイロンは、一人息子の彼が旅を終え、仕事に気を入れ始めて以降、ほくそ笑むことがある。


「父さんの跡を継ぎたい。絶対に諦めたり、投げ出したりしないから」


 この決意をハルから聞いた時、危うく感涙を息子の前で見せるところだった。これを聞けただけでも、この子を育てた甲斐があったということではあるが、ここからが始まりなのだ。ゴールは遠い。


「しっかり鍛えてやらないと。でも、ハルなら大丈夫だ」


 徐々に仕事を思い出し、動きにキレが戻ってきつつあるハルの働きぶりを見て、バイロンは一人、何度もうなずいた。




 仕事の帰り、ハルは寄り道をすることが少し多くなっていた。レイラといつものカフェでデートするからだが、


「ここのカフェオレは、いつもおいしいね」


 ソフィアがついてくる頻度が旅を終えて以降、多くなってしまった。姉は好きだが、恋敵としては譲れないというところだろう。はっきりさせないハルが一番悪いので、どうしようもない。


「そうね。それにしても……また、ここでコーヒーが飲めるようになってよかったわ」


 長旅の中の危地と、ヘリオス島での死闘を思い、レイラはテラス席から青空を見上げていた。




 平和な日常での母の手料理というのは、ホッとするものだ。それを作ってくれる母が二人もいたら、果報者もいいところである。


「おかえりなさい。今日もちゃんと働いたのね。えらいえらい」

「うーん、母さんも父さんも、まだまだ俺を子供扱いだなー。いただきます」


 ぶつぶつハルは言っているが、アイリとカレン、二人の母が出迎えてくれる幸せは、身にしみるほど分かっていた。ただ、そんなことをつぶやきたいだけなのだ。


「ごちそうさま。美味しかったよ、母さん」

「ふふっ、また明日もこしらえるからね」


 カレンは()()()、ハルに言えなかったこの言葉を、決まって毎晩繰り返している。


 月夜のアンカーレストの港に寄せるさざなみは、いつも優しい。


                              おわり

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