第76話 結ばれた絆
ハルとレイラ、それにソフィアが長旅を終え、故郷アンカーレストに帰還した当日。その知らせを受けたバイロンとシリルは早々に仕事を切り上げ、バイロンの家で子供たちの無事と、旅の大成果を祝うため集まり、心づくしの料理を広げた宴会が催された。我が子を心配しない日がなかった親たちは、計り知れない心の成長を遂げたハルたちを瞳に写し込み、これ以上の喜びはなく、どの目も潤みがかっている。
「子供たちがよく頑張ったのもあるが、やはりカレンさんがしっかり守ってくれたから無事だったんだろう。本当にありがとう。これからも傍で見守ってやって下さい」
「そんな……お礼を言うのは私の方です。子供たちがいなければ、私は救われることがありませんでした」
バイロンの心からの感謝に、カレンはそう返すしかなかった。そして、彼女はしばらく沈思したあと意を決し、前世のハルと自分との繋がりについて語り始める。それはここにいる誰しもが聞きたかったことで、特にハルとアイリは、一語一句聞き漏らすまいという様子だ。
忘却の文明のテクノロジーはテラのそれと比べると、信じられないくらい高度なのは周知だが、神の領域と言える、人が人を造り出すところまで達していた。前世のハルは、人工的に生み出されたバイオノイドだったのだ。だが、ハルが生まれたのは全くの偶然であった。なぜなら忘却の文明の民は、エクソダス計画で異なる新しい惑星へ、既に全て移住しており、遺物である高度なテクノロジーによる機械装置群は、何もかも停止されていたからだ。しかし、1つのバイオノイド生成装置が完全に停止しておらず、少しずつ時間をかけて人が形造られ、ハルが赤ん坊として生まれ出た。
そのままでは赤子のハルは、飢えて死ぬ運命しかなかった。だが偶然か運命的か、ハルとカレンの絆がそこで結ばれる。忘却の文明が造り出したアンドロイドで、文明の最終防衛システムでもあったカレンは、神をも凌駕する強大な力を持て余され、忘却の文明の民たちに置き去りにされていた。誰もいない惑星で、永久に眠り続けていたカレンは、保管装置のある誤作動で目覚める。
(起きたところで私の存在意義はない。消えてしまえばいいだけだ)
意識が回復したカレンは、絶望にさいなまれることもなくそう考えたが、彼女の足元に懐いてくるハルを見て大いに驚き、
(この子の一生を見届け、そしてそのあとに消えよう)
太陽のような希望を与えてくれた赤ん坊のハルを優しく胸に抱き、微笑みと共にそう決心した。