第75話 どんなお礼をしても
「よし。カレンの機体と戻ることになるとは思わなかったが、ギリギリで無事帰れたな」
忘却の文明の遺跡に戻ったワイズはテラに戻れたことを、仲間たちと手を取り合って喜びもせず、早速、文明の遺物である転移装置の機械群を詳しく調べ始めている。ただ、そのおかげで一つ分かったことがある。ワイズの独り言にもあるが、本当にギリギリだったのだ。忘却の文明の惑星からテラへの帰還時は、カレンを入れて1機と2人になった。それゆえ、もう転移に使うエネルギーは残っておらず、テラのテクノロジーではそれを補給する術がない。今の時代では、転移装置を再び動かせる可能性は完全になくなった。
「幸運なんてもんじゃないな。あのまま戻れなかったらどうしようかと思ったよ」
「……私はそれでもよかったわよ。また、ハルと暮らせてたんだから」
半分冗談で半分本気で、カレンは幸せそうな微笑みを浮かべてハルを優しい目で見ている。前世の記憶などないハルは、困ったような複雑な苦笑でそれに返した。
「カレンさん、ハルと私たちを守ってくれてありがとう。これからもよろしくね」
「こうやってカレンさんと喋れるようになれて嬉しいな。よろしくね」
ハルとカレンの仲睦まじいやり取りを眺めていたレイラとソフィアは、心底嬉しそうな笑顔でカレンに右手をそれぞれ差し出した。彼女たちの優しさに、カレンは涙を流してしまいそうだったが、ぐっとこらえ、
「私こそどんなお礼をしても、レイラちゃんとソフィアちゃんに返せないわ。ハルを支えてくれてありがとう。私とハルをこれからもよろしくね」
緑髪と銀髪が対照的に映える、2人の美少女の手をどこまでも優しく握る。
「そろそろ帰らないといけないんだろう。お前たちは面白かったぞ、また来い」
「あのなあ……でも、ワイズが人を気に入るなんて珍しいな。俺もあんた達と冒険出来て面白かったよ、またいつでもクライムランドに来なよ」
長旅の目的は最高の結末で果たした。ワイズの言う通り、ハルたちには帰る場所がある。カレンを救うため、大いに協力してくれたワイズとフラットに、ハルは心からの感謝を示すと、レイラ、ソフィア、カレンを周りに呼び寄せ、転移魔法で故郷アンカーレストへ緑の光と共に帰っていった。
子供の心身の成長はとても早い。それなら、誰にも成し遂げられない冒険を成し遂げ、両親が待つ故郷に戻ったハルたちの場合はどうだろうか?
「ハル? ハルなの?」
「ただいま母さん。戦女神と帰ってきたよ。カレンって言うんだ」
我が子が目の前にいるはずなのに、アイリは別人のようにたくましくなったハルを見て、なぜか一瞬戸惑ってしまった。そして、最愛の一人息子からの「ただいま」を聞き、我に返ると涙を流してハルを抱きしめる。
その光景を自分の機体で直接見守ることができたカレンは、幸せ以外の何物でもなかった。