第72話 キメラ(大型)
「おお! これはいきなり、とんでもないのがいるな!」
遺跡内部に入るや否や、ハルたちは現実感のない恐怖を目の当たりにし、瞬間的に唖然とする。頭のネジが外れているワイズだけは、遺跡の高い天井の半分以上はあろうかという、獅子の頭、ヤギの胴体、毒蛇の尻尾を持つ、得体のしれない大型の怪物と対峙し、目を輝かせ興奮していた。
「なに……これ……」
「キメラだ。忘却の文明が作り出したものなんだろうが、こんなのまで作れるとはな」
「おい! ワイズ! 悠長なこと言ってるけど、どうにかしないと帰れないぞ!」
ランスロットの修行を終え、胆力で心が満ちている超強気のレイラですら、大獅子の牙を持つキメラを見て、まだ呆然としたままだ。ワイズは学者らしい、ピントが外れたことを言っているが、フラットに強く呼びかけられ、やっと怪物の対処をみんなに伝え始めた。
「そうだな。まずこいつを倒さないと先に行きようがない。戦うのはハルたちに任せるが……フラット、試しに眠らせてみるか?」
「図体がでかいから効くかどうか分からんが、やってみるか。俺にできるのはこれしかない」
赤い魔法石が付いたワンドをキメラに向け、フラットは魔法力の集中を始める。そして、
「スリープ!」
魔法石と同様の赤い光が放射状にワンドから発せられ、キメラがそれに包み込まれる! 睡眠へ誘う魔法は完全には効かなかったが、キメラは獅子の顔を朦朧とさせ、動きが緩慢になった。
「よし! これなら上出来だ! ハルたち、あとは頼むぞ!」
「やるしかないな! レイラ! ソフィア! 俺が魔法を撃ち込んでみる! あとに続いてくれ!」
「わかったわ! 早速、この大剣の出番ね!」
「私も、このおばあちゃんのワンドで、みんなを助けるね」
今まで戦ってきた敵とは、比較にならない強大な相手なのは間違いない。それを察知してか、ハルが魔法力の集中を始めると同時に、戦女神が彼の傍で既に顕現している。彼女は右手をかざすと、分厚い光のエネルギーシールドを展開し、戦いに臨むハルたちを最大の力で守っていた。
「ファイアストーム!!」
戦女神による魔力の増幅と『潜意識の解』を用い、ハルは爆炎の竜巻を発生させ、高速で正面のキメラへぶつける! 巨体のキメラはスリープの魔法で意識が完全でなく、炎の烈風を避けきることができない! 高熱で獅子の頭とヤギの体が焼けただれた! かなりのダメージを負ったが、それでも致命傷には至っていない。
「ガオオオオォォオオ!!!」
大やけどで完全に目が覚めたキメラは怒り狂い、ハルに向かって突進し、無傷の毒蛇の牙と、焼けただれに歪む獅子頭の牙で、大きく噛み砕いてきた!