第70話 探求心とランスロットの大剣
本来の学者というのはワイズのようなものを言うのかも知れない。自分の探求したいことをどこまでも追い求め、他の事には非常に関心が薄いのだ。そのとてつもない探求心を掻き立てるツボが、ライセイのエムブレムだったのは、今、ハルたちにとって、とても幸運だったと言える。
「そうだな、間違いない。青い鳥がいる森の、古代遺跡に関連しているに違いない」
「えっ、ライセイがいる森に、そんなのがあるの?」
戦女神と森を歩いた夢が、完全に現実のものとなったのにもソフィアは驚いたが、ワイズは考えていた以上に書物を調べ、ライセイのエムブレムが、何かの鍵になっていることまで推定している。ハルとソフィアは、長旅の展望が一気に開けた興奮に、体が震えそうであった。
「ああ、あるぞ。俺はその古代遺跡……いや、古代文明の遺跡と言うべきだろう。そこに以前、行ったことがある。どうやっても内部に入れなくて帰るしかなかったがな」
「そんなこともあったな。何年前だったか、今よりモンスターが少なく平和だったな。懐かしいな」
ワイズもフラットも、思い出に少しの間、浸っていたが、詳しい自己紹介を忘れていたことにようやく気づき、自分は噂通りの変人学者であること、そしてフラットは八百屋の息子ながら、精神系の魔法が使える昔からの友人であることを手っ取り早く話した。
「それでだ。ここにある文献でも、そこまでの推定はできた。だが、まだ足りない。研究というものには、確証が欲しいわけだ。そこでお前たちには、王立図書館で文献の調査を手伝ってもらう」
「わかりました。手伝いますが、俺たちは素人です。どうやって調べたらいいか、教えてもらえたら」
「ああ、もちろん教えるぞ。掻い摘んで言わなくても、ポイントは1つしかない。ライセイの絵だ」
研究の道が拓けた学者の行動は、疾風の如きものだ。その日のうちに多種多様な文献がある、広大なクライムランド王立図書館へ移動すると、それから10日間、ワイズとフラット、それにハルたちは、青い鳥ライセイと、森の古代文明遺跡の調査に没頭することになった。そして、ハルが見る戦女神の夢と、彼を守り続けているのが、その戦女神自身である話を、一心不乱に文献を調べながらも横耳でワイズは聞き、それらのことを合わせ、森の遺跡が忘却の文明の遺跡であることをついに突き止める。
10日たち、新しい大剣を背に抱え、何もかも吹っ切れた迷いのない顔で、レイラが丘のワイズの家にやってきた。
「準備はできた? 私はいつでも大丈夫よ」
彼女が輝かせる美しい笑顔と、背中の新しい得物が非常に頼もしい。それは、レイラの剣師となったランスロットが、ハルと彼女の目的を聞き、信頼し託した秘蔵の大剣である。