第66話 高地の王国クライムランド
魔法のキャビンで何泊しただろうか、魔物に遭遇することもクライムランドまでの移動で多くあり、その度に切り抜けてきたが、ハルたちは少しばかり疲れていた。しっかりとした休息が取れるキャビンがなければ、その疲労はさらに深いものになっていただろう。あるいはその場合、耐えられる旅ではなかったのかもしれない。
そうした長旅の苦労を重ねながら、ハルがふと気づいたのは、
(今の俺の力なら、セトじいさんのワンドも使えるんじゃないか?)
という、自分の魔法力に対する自信であった。それは確かなものだろう。サジに修行をつけてもらい、力を飛躍的に伸ばしたハルは、大岸壁以降、手強い魔物との戦いで、戦女神の力を借りることはほとんどなかった。心身ともたくましくなったのだ。
転移魔法でアンカーレストに一旦帰ることも、ほんの少し考えた。だが青い鳥ライセイの森は、地図からするともうすぐだ。自分を守護する戦女神の謎が、もうすぐ解けるかもしれない。前に進むのが先決である。
「わー! 見て見て! すごく大きな岩の壁があるよ!」
「本当ね、凄いわ。随分高くて切り立っているけど、まさかあの岩壁を、登る人はいないでしょうね」
ソフィアとレイラが明るい歓声で眺めているのは、クライムランド王国の象徴でもある大岩壁だ。ヤタロウから貰った地図にもそれが描いてあるほどで、雄大で揺るぎない一枚岩が鎮座し、それは城と城下町を含む、高地に位置する王国全体を守っているように、ハルたちには感じられた。
内陸であり、標高が高い都市ながら、クライムランド城下町は数多の人の往来で忙しく、賑やかだ。交易も盛んに行われていて、中央通りに並ぶ商店は多く、構えも立派である。
「さーて、ようやく着いたぞ。まず、情報を集めたいんだが……あれ? どうした? レイラ?」
目的地に無事たどり着き、長旅の緊張感がそれぞれ解けたハルたちだが、レイラが何やら立て札の前に立ち止まり、書いてある文をじっくり読んでいる。
「ああ、ごめんねハル。気になったから読んでたの。王立の剣術練成場があるらしいわ。クライムランドのことはそんなに知らなかったけど、北の国に、強い剣士が集まってるのは知ってた。ここだったのね」
剣の道を志す者として、常日頃、気になっていたのだろう。自分を高めたい意志と、剣術練成場への興味が、東日に照らされたレイラの様子にはっきりと表れており、それは非常に美しいものだった。
恋人のそんな顔を見たら、手を引いて望む所へ連れて行くしかない。