第61話 潜意識の解
「先に言うたように、わしがお前さんを見てやるのは3日だけじゃ。次々に段階を越えんといかんぞ。ここにあるセンカマドを1日で木炭にするんじゃ」
「1日で!? これって、俺の魔法力で燃える物なんですか? まるで鉄の枝に見えます」
自信がなさそうにセンカマドの太い枝を持ってブツブツ言うハルを、細目で白ひげを撫でながら、サジは暫く眺めていたが、
「これも言うておくがな、お前だけの力で燃やさんと意味がないぞ。ハルよ、お前の心の中にとんでもない力の主が宿っているようじゃが、その助けを借りてはならん」
「ええっ!? サジさん分かるの!? 戦女神の話はしてないのに?」
「そのくらい見抜くわい。飽きるほど生きておるからな」
白い眉を一つも動かさず答えたサジに、レイラは人ならざるものを感じたが、首を左右に何度か振ってもう一度見直すと、やはり小さな老翁が立っているだけである。彼女は自分の惑いが、サジをそう見せたのだろうと思うことにした。
「そうですか……そうですよね。何とか自分の力だけで燃やしてみます。でも、燃やせるもんかなあ?」
「なーに、千回火柱を出しても燃えやせんよ。そこでじゃ、ちょっと教えといてやろう」
傍に立て掛けていたハルのミスリルロッドを渡し、セトはセンカマドの太い枝を地面に置くよう指示する。そして炎の魔法で狙いをつけ、ハルに魔法力を集中させたのだが、彼の腕に手を添え、軽く力の介添をしてやった。
「わわっ!? 凄い! 俺の体の中から魔法力が湧き上がってくる!」
「そうじゃろう。もっと限界を超えるまで力を集中させてみい」
もらった力のきっかけに驚いているハルだが、深く深呼吸を始め、精神を統一し、今までにないほど炎の魔法力を、ミスリルロッドの一点に集める!
「よし! 放て!」
気が入ったサジの号令に合わせ、ハルは炎の魔法をセンカマドの太枝目掛けて放った! それは炎というより、ほとんどまばゆい閃光である。超高熱の閃光は、炎を寄せ付けそうにない固く黒光りするその枝を見事に燃やし、非常に良質な木炭を生み出した。
「で、できた! サジさん!? これってどういう……?」
「お前さんの限界以上を引き出してやったんじゃ。この集中方法を『潜意識の解』という。今日はくたびれて何も考えれんようになるまで火を使い、それをものにしてみい」
大魔術師サジが編み出した魔法力超集中の秘術、それが『潜意識の解』である。きっかけがあったとはいえ、実際にそれが出来たハルは、自分の両腕が信じられなかったが、確かに今までになかった炎の魔法力が、体の血潮をまだ巡り続けているのを体感している。