第6話 あなたを守ります
「あんたが親玉ね! 私の町に手出ししたからには容赦しないわよ!」
「…………」
無感情な能面、そう表すのが最も適当である。それが悪魔の戦士の顔だ。威勢よく啖呵を切るレイラを、標的として認識しているが、凄まじい膂力を秘めているその青白い体に、それ以上の感情が備わっているか懐疑的だ。
素軽い瞬発力で敵との距離を一気に詰め、レイラは首筋の急所を斬り上げた! だが、悪魔の戦士は並の相手ではない。岩をも砕きそうな右腕に持つ剣で必殺の一撃を完全に受け止め、そのまま膂力に任せ、レイラの体を弾き飛ばした!
「くっ……やるわね!」
ギリギリの所で受け身を取り、レイラは打撃を免れている。彼女の整った顔にさっきまでの余裕はもはやなく、無表情で不気味な戦士の強さに、焦りの冷や汗すら滲んでいた。
「レイラ!? このままじゃ危ない!」
「おい! ハル! 待つんだ!」
「待たないよ! レイラがやられる!」
バイロンの制止の声を振り切り、砲台の傍に立て掛けてあるミスリル製の魔術師のロッドを手に取ると、ハルは全速力で、失うことができない幼馴染であり恋人の危地を助けに駆け走った。
変わらず緩慢なペースで、悪魔の戦士はレイラとの間合いを徐々に詰める。感情はその能面からは全く読み取られないが、先程の剣撃で、彼女と自身との力の差は完全に推し量れているはずだ。それは圧倒的で、このままではレイラが生き残れることはない。
「来なさい! 絶対通さないから!」
度を越した強気の彼女は、怯むことも退くことも全く考えず、防御に徹した中段からやや下の構えで、アンカーレストの町を死守しようとしていた。この身がどうなろうと、という気概がひしひしと伝わる。
「レイラ!」
「ハル!? ダメよ! 危ない!!」
窮地に駆けつけてくれたハルに、レイラは勝てる相手ではないことをすぐ伝えたが、時は既に遅かった。今まで緩慢に動いていた悪魔の戦士は瞬転、風を裂くような速さで間合いを無くし、兜割りでハルの体を真っ二つにする!
「ハル!!!」
絶望の絶叫がレイラの口から叫ばれた。しかし彼女の絶望は、驚愕と茫然へと変化する。
「俺は? 生きてる! でも……なんで?」
無傷のハル自身が一番混乱している。彼がとっさに上へかざした魔術師のロッドは、青髪の美しい戦女神を呼び出し、彼女は絶対的な光のエネルギーシールドで、ハルを包み込むように守っていた。
(ハル。あなたを守ります)
戦いの女神は言葉を発していない。だがハルの心には、優しくどことなく懐かしい声が深く響いた。