第55話 戦女神は色目を嫌がる
数十年前までは小さな村だったと思われる廃墟の探索には、それほど時間を取られなかった。広めの朽ちかけた廃屋の庭を、ミニデーモンたちが我が巣として思い思いにくつろいでいる。ハルたちが発見したのは5匹、数はちょうど揃っていた。
「こっちに気づいてないみてえだな。どうする? 仕掛けてみるか?」
「はい。イゾウさんとレイラで斬り込んでもらっていいですか? 俺とソフィアが魔法でカバーします」
「私はそれでいいわよ。イゾウさんは?」
「構わねえ。じゃあ行くか」
幾多の死線をくぐって来たのだろう。今の今までのっそりしていたイゾウは、狼犬のごとき俊敏さで、一つの迷いもなくミニデーモンの群れに斬りかかって行った! あまりのイゾウの変わりように、一瞬、レイラは呆気にとられたが、直ぐに気を戦いに切り替え、彼のあとを追い、速攻をかける!
「ナ、ナンダ!? オマエラ!?」
突然の虚を突かれた先制攻撃に、5匹のミニデーモンは慌てふためいた。そして緑色の小さな悪魔は態勢を整える間もなく、仲間の2匹をイゾウとレイラの斬撃により、失ってしまう! 勢いに乗り、一気呵成に残りも斬ろうとした剣の達人と天才であったが、
「チョウシニノルナァァー!!!」
ミニデーモン3匹が魔力で生み出した数個の風の刃が、イゾウとレイラへ高速で飛んでいく! 人間が反応して避けられるような速度ではない! 二人は咄嗟に剣を盾にしてなんとか身を守ろうとする!
「……?」
切り刻まれているはずのイゾウとレイラを守ったのは、戦女神が作り出した分厚い炎の壁であった。鋭い風の刃は、その壁に飲み込まれて消滅している。イゾウは信じられないという顔で後ろを振り向き、
「こりゃあ確かにべっぴんさんだ」
左腕をかざし、炎の壁でハルたちを守っている戦女神の美しさに見惚れていた。妙な目で見られている戦女神は、ちょっと戦いにくそうだ。
「イゾウさん! レイラ! どいてくれ!」
第2の母のような存在の彼女に、そんな色目が向けられていると気付かず、ハルは戦女神がかざした右手から魔力の増幅を受け、
「フレイムピラー!!」
数本の火柱を超高速でミニデーモンへぶつけた! レイラは退避し、安全にそれをかわしたが、
「あっぶねえっ!!!」
イゾウの方は危うく火柱に焼き尽くされるところであった。多少、戦女神が彼の色目を嫌がり、ハルの狙いを調整したのかもしれない。
爆炎の柱は2匹のミニデーモンを焼き尽くし、残りは、かろうじてかわした1匹だけだ。既に戦意を失っているようだが、慈悲をかけるわけにはいかない。