第53話 君たちは興味深いね
「これを買いたいんですが、でも、高価なんですよね?」
「そりゃあそうなるね。人里離れたところで、最高の職人たちがこれを作っているということしか、私でも知らない。滅多に仕入れられない物だから値が張る。60000セレネだよ」
覚悟はしていたが、あまりの高値にハルたちは絶句するしかない。60000セレネというと、ハルの父、バイロンが運営しているドックを、そっくりそのまま買えるほどの額だ。ハルたちが逆立ちしても払える金額ではない。
「ろ、60000セレネ……。どうしよう、ハル兄ちゃん? 私たち、4000セレネしか払えないよね?」
想像の範囲を越えた額に、ソフィアもドン引きした。楽天家の彼女ですら、ちょっとした絶望感を感じている。そしてハルに話しかけた中で、自分たちが払える限界の金額を言ったのだが、目ざといヤタロウはそれを聞き逃さず、
「ほう。君たち4000セレネも出せるのか。ますます興味深いな。すまないが、そんな大金が払えることも含めて、話を聞かせてくれないか?」
そう切り出した。流石は大商会の会長である。人を見る目があり、ハルたちは様々な可能性と能力を持った若者だと考え、認識したようだ。是が非でも買いたい魔法のキャビンの売り手から、手がかりとなる助け舟を出してもらった形である。ハルはこの機会を逃さず、包み隠さず経緯を話した。
「そういうわけか。小型のドラゴンを倒せるほどの腕前があるんだね。いや、大したものだ。そして、青い鳥ライセイを探していると。だから、長旅に必要な魔法のキャビンが欲しいわけか」
誠実な話を聞き、ヤタロウは何やら深く考えている。八菱商会をここまで大きくした彼は、このように沈思し、重要な判断をこれまで数多くしてきたのだろう。そしてその決断は、商会にも周りにも好影響をもたらしてきたものだったに違いない。
「よし決めた。君たちに一つ頼みたいことがある。これを成し遂げてくれれば、魔法のキャビンを無料で譲ろう」
「無料で!? でも……どういった頼みなんですか? 私たちが出来るようなことなんですか?」
そんなうまい話はないはずだと、レイラはやや身構えて尋ねた。ヤタロウは出来るとも出来ないとも答えず、
「まず、うちの用心棒と会ってほしい。おーい! ちょっとイゾウを呼んでくれ!」
と、部屋の外で待機していた店員に呼びかけた。店員が小走りにどこかへ行ったあと少したち、ボサボサの総髪、冷たいギョロ目で猫背の容姿をした用心棒が入ってくる。とっつきにくいようにも見えるが、彼にはどことない愛嬌もあった。