第5話 アンカーレスト防衛戦
アンカーレストの見張り櫓から視認できる魔物の数は、この数年で少しずつ増えてきている。街道を通り、他の町へ行く旅人が襲われることも多くなっていた。そうではあるが、その日の見張りが認めた魔物の群れは、尋常な数と全く言えない。
「どういうことだ? これは?」
「こっちに近づいて来てるわね」
伝達を聞き駆けつけた自警団長シリルは、まず我が目を疑った。それほどの数の魔物が、アンカーレストに敵意の牙を見せている。それを冷静に観察し、対処方法を考える愛娘レイラの肝の太さは、父親である彼にとって新たな頼もしい発見であった。
「お父さん、バイロンさんにも協力してもらいましょ。かなりの数だけど、大砲を使えば何とかなるわ」
「そうだな。おい! バイロンに大至急知らせてくれ!」
「わかりました!!」
敵の戦力が見えている心強い長女の助言を聞き入れ、シリルは交易船ドックへ使いを走らせる。そして、招集をかけた自警団全員を、臨戦態勢に配置し、町を守る絶対の防御陣を敷いた。
砲術に長けた船員と息子ハルを率い、バイロンが素早く駆けつけると、魔物の群れは加速度をつけ、アンカーレストの大門へ向かって突進し始めた。敵に統率は全くない。しかしながら何もせず待ち構えれば、頑丈な大門は暴力の数に圧倒され、紙のようにすぐ破られるだろう。
「狙いをつけたな! よし! 撃てえー!!!」
野太いながらよく通る号令で、防衛の切り札の一つといえる大砲部隊は、一斉砲撃を行った! 命中率は上々、魔物の群れは、高速で飛んでくる重い鉄の塊に吹き飛ばされ、その数はおおよそ半減している。
「俺の砲撃も当たった! でも、あいつらまだこっちに来るぞ!!」
一門、砲を任されたハルは、この戦の司令官と言えるシリルとバイロン中心に、必死の形相で呼びかけた。二人は「任せろ」と同時に応えると、守りの大門を内側から開き、精悍な仲間にそれぞれの剣を抜かせ、攻勢に転じる。その中には、父シリル譲りの勇敢さと剣技を兼ね備えた、レイラの姿もある。
「町を壊しに来たんなら、ぶった斬ってやるわ!」
アンカーレスト随一の剣士である彼女が振る剣は、剛であり、また流麗でもあった。長女のレイラをひいき目に見ることなど、シリルにはありえないことだ。その偏りがない目において、娘は剣の天才と認めており、レイラの初めての実戦となった今、魔物を次々と斬っていく彼女に全幅の信頼を感じ、任せていた。
敵は斬り伏せられていき、こちらが勝勢だ。だが、あちらには、一匹だけ静かなペースを崩さず近づいてくる、強力な悪魔の戦士が残っていた。