第49話 大都会ファークリフ
思いがけない大きな苦難を受けたが、ハルたち一行は水竜を撃退することでそれを打ち払った。やや不穏に漂っていた海の瘴気は、戦いの勝利により一時的に晴れ、ファークリフにたどり着くまで航海は順調に進む。
海を移動すれば、アンカーレストからファークリフまでは1日足らずで行くことができる。バイロンが操る船が取舵をとったあと、雑多な、それでいて賑やかで大きな建物が立ち並ぶ要衝の港町の風景が、水平線の向こう側に見えてきた。大きな町だ、港の規模も大きく、商船が何隻も係留されている。
「ヨーソロー」
暫く直進させたあと、そのまま手際よく船員に指示を出し、バイロンはファークリフの港に船を接岸した。船長として自在に船を操る父の姿が、ハルには一際眩しく見える。それは、夕暮れの西日のせいばかりではない。
(旅が終わったら、俺は父さんを目指そう! 跡を継ぐんだ!)
バイロンの意図しないところで、ハルは言葉にしなかったが、強く決心した。あるいは思いをそのまま父バイロンに告げたら、その目は潤んでしまったかもしれない。そういった息子の横顔を見て、
(いい顔だ。これなら大丈夫だろう)
バイロンは一人うなずくと、ハルの肩をポンと叩いた。
夕日が差し込むファークリフの大きな港には、もう夜が近づいてきている。それでもなお、要衝の交易都市の往来は賑やかで緩まず、周りに立ち並ぶ店も閉まる様子がない。ハルたちの故郷、アンカーレストは決して田舎町ではない。しかしそれと比較しても、町が持つ勢いにハル、レイラ、ソフィアは、圧倒されそうになる。
「こんな賑やかな町があるんだね~。お店の数も多くて数えられないよ」
「はっはっはっ! 凄いだろう! 恐らくは、カルタリアの中でファークリフは最も栄えている港町なはずだ。ハルにもあまりこういう話をしたことはなかったけどな」
傍らでバイロンが、少し得意そうに町の説明をしてくれた。好奇心に目を輝かせたソフィアは、港前の大通りに広がる、人々の雑踏と賑わいをじっと見続けている。ハルとレイラも同様で、初めて見る大都会の喧騒に圧倒されそうになりながら佇んでいた。
「止まって見てばかりもいられないぞ、ハル。お前と一緒にいてやれるのは今日だけだ。ここからは、お前が先頭に立つ旅だぞ」
「そうだね、分かった。前に進んで行くよ」
一つパチンと自らの頬を張ると、ここまでハルを想いついて来てくれたレイラとソフィアに目配せし、彼は青い鳥を自分の手で探すため、旅の一歩を踏み出した。